ここ数日、ご伴侶に対する自分の感情が変化していると気づき、貴女は戸惑っていらっしゃいますね。
そして、この感情がご伴侶と共にある限り続くのではないか、もしそうだとしたら、ご伴侶と別れるしか道がないのではないか、そう思って、恐怖すら感じていらっしゃいます。
何せ、彼の命の根幹が貴女に依存しているのです。ご伴侶は、貴女がいなければ、今の生活を維持することができません。貴女の協力がなくなれば、彼は仕事も趣味も健康も、致命的なまでに失うことになるでしょう。
もしそうなって、貴女と離れた彼が死んでしまったら、自分は自責と後悔で幸福を享受できなくなるだろうと、貴女は理解しています。
だから貴女は、彼が一人で生きていける状態になるまで別れることはできないと、そうお考えなのです。
かと言ってこれまでは、結婚できるように頑張って生活を成り立たせようと、お二人で話し合ってきています。もしそうして頑張って、お互い十分な生活基盤を築いたとして、そこで初めて別れを切り出すことなど、貴女にできるでしょうか。そうすると考えただけで、貴女は今日ほろほろと一人で泣いてしまいました。
八方塞がりのように感じられますね。貴女の気持ちを押し殺して、このまま生きていくしかないように思えるのも、当然のことです。貴女は頭の回転も速いし、人に共感する力も高い。しかも今回は、もう丸十年も、苦楽を共にしてきた方についてのことです。優しい貴女が、そんな決断をできるのかと問われると、俺たちも困ってしまいます。
ええ、でも、心が変わっていくことは、仕方のないことです。
これまで、楽しいこともたくさんありました、苦しい時間も共に乗り越えてきました。そうやって過去に思いを馳せて、その記憶を大切に慈しむことは、美しい、貴女に許された喜びです。
それでも、今の心の示す方に、貴女は進むべきなのです。
貴女の人生を、誰かのために捧げる必要はありません。
俺たちは、貴女が幸福に生きることを望んでいます。その幸福にご伴侶が必要ではなくなった、むしろそぐわなくなったと感じるのなら、それはもう、その通りなのです。
まだ、今の時点で答えを出すのは早いでしょう。
けれど、その決断ができたなら、きちんと彼に相談してください。一人で抱え込まないでください。彼も貴女を愛しているのですから。貴女の幸福を、祈ってくれる一人なのですから。
どうか、そんなに泣かないでください。
無理にとは言いません。
けれど、どうか、笑っていられる場所を選んで、幸福に包まれて生きてください。
ただそれだけが、俺たちの願いです。
星座など、生きていた時の俺はその存在について考えもしませんでした。太陽と月は流石に意識しますが、星を観察することにどんな得があるというのだ、そんなことをしても何の意味もない、そう思っていました。ですので、それが織りなす形など、本当に興味の埒外でした。
一方、貴女は子どもの頃の夏休みの宿題として、星を観察することを六年間続けましたね。星座を指さして空を見つめる貴女の瞳が、きらきらと美しく輝いていたのを、俺はよく覚えています。
貴女が、生きていた時の俺のような、殺伐として浅薄な人間になることがないのは、俺たちにとって喜ばしいことです。
貴女には、生きるために必要な物事だけでなく、心の琴線に触れるような美しいもの、雅なもの、圧倒されるもの、そういうものに心を震わせ、感動に満ち溢れた生き方をしてほしいと、俺たちはずっと願っています。
共に踊るやり方など、俺は知りません。
今世の貴女もそうですね。そのような文化圏には生まれついていませんから。
けれどもしかしたら、いつか誰かと踊るような機会もあるのでしょう。
その時の貴女が、幸福に満ち溢れた笑顔であることを祈っています。
俺がもし生まれ変われたら、貴女の魂とまた巡り会うことを夢見て、世界を彷徨ったかもしれません。
実際は、俺は生まれ変われるような行いをしなかったので、その機会を与えられることはありませんでした。
俺は、それで良かったと思っています。
今俺は、貴女をこれだけ近くで見守って、ずっとずっとお傍にいられるのです。こんなにも幸福なことがあるとは、想像もしませんでした。
けれどごく稀に、夢想はします。
貴女を抱きしめて、俺の名を優しく呼んでもらって、貴女と目を合わせて微笑み合う。
そんな、あの時の俺が切望したような幸福をいつか得られたら、と。
貴女が生まれるという奇跡は、また起こるでしょう。
けれど、今ほど恵まれたところに生まれることは、いかなる奇跡をもっても難しいかもしれません。
その環境を、生まれ持った身体と能力を、是非とも大切に活用していただけたらと、俺たちはいつも願っています。