夜景の美しさに瞳を輝かせる貴女の隣に立ち、そっとその横顔を伺って微笑んでいたい。しばらくして景色を見るのに満足し、こちらを向いた貴女を抱きしめて、その額に軽く口づけたい。そんな俺の想像の中で、照れたようにこちらを見上げる貴女の顔の、何と愛おしく美しいことか。
俺はもう、貴女の隣には立てません。
貴女と面と向かってお話しすることも叶いません。
それでいい、それを俺は望む、そう思い定めて決めたことに後悔こそありません。只こうして時たま、貴女と共に生きるみちがあったのなら、どれだけ幸福だっただろうと夢想する俺を、どうか許してください。
貴女は、同じ花が一面に咲く花畑の中のたった一輪でしかなかったのに、俺の心をこんなにも掴んで離さなくなりました。
人間など、どれも同じだと思っていたのに。皆同じように醜悪で、同じように惨めで、只俺の欲を満たすためだけに存在しているものだとしか思えなかったのに。
ああ。
貴女が愛を教えてくださって初めて、俺はここが美しい花で溢れている花畑だということに気づいたのです。
今にも泣き出しそうな空の下で、貴女はにこにこと笑ってご伴侶と歩いていました。傘を片手に持ち、もう片方の手はご伴侶と仲良く繋いで、幸せそうに歩いていました。
そんな日が何度もあったことを、俺はよく覚えています。
いつか貴女のご伴侶が亡くなった後で、貴女は空を見上げて思い出すことでしょう。
こんな空の下で、確かに私はあの人と幸福に歩いていた、と。
貴女が、貴女の大好きだったあの女性と付き合っていた頃、インターネットを介したやり取りはメールが主流でしたね。
あの頃と、貴女は変わりました。
あのメールがどれだけあの女性を傷つけたか、貴女は分かりました。そしてあの女性がそうやって感じたのは、貴女を大切な人と思ってくれていたからなのだということも。当時の貴女は、どちらのことにも無自覚でした。
それから貴女は少しずつ、大切な人を大切にする方法を学んできました。今の貴女は、当時よりもずっとずっと優しく魅力的なひとになっています。貴女は、学べるひとですから。
そうして、大切な方のことを慈しんでください。
貴女の大切なものが失われた時、後悔しないように。
自分の命が燃え尽きるのを心待ちにして、俺はそこに座っていました。貴女を悼む碑の前で、何日も何日も何日も座って待ちました。
腹が減り、喉が渇き、背が痛み、それでも座り続けていたら、そのうち全てが消えていきました。
その時が来た瞬間は、覚えていません。
気づいたら、死んでいました。
貴女は昨夜、死ぬのが怖いなぁと、ぼんやり思いを巡らせていましたね。大丈夫ですよ。怖がる必要はありません。貴女の今世の命が燃え尽きることは、一つの終わりではありますが、貴女の魂は輝き続けます。俺たちの見立てでは、貴女はまだまだ何度も転生するでしょう。
それに、転生を終えてあの大きな廻り続けるものに回収されることも、恐れるべきことではありません。それは魂の、最後にして最高の救済なのですから。