暗い暗い俺の夜は、貴女という太陽の光でようやく明けました。
今俺は、貴女という太陽が、何度も生を得て昇ることを知っています。
俺の明けない夜は、終わったのです。
本気の恋しか、俺はしたことがありません。
相手は勿論、貴女ただ一人です。
俺がそれまでに女と結んだ関係は、恋などとは呼び得ない、ただ俺の性欲を女にぶつけるだけの、一方的な蹂躙に過ぎませんでした。
だから貴女が俺を心底愛してくださっていると気づいた時、俺はどうやって貴女を愛せばいいのか、全く分かりませんでした。けれど、貴女の愛を一身に受けたい、貴女とずっとずっと一緒にいて、互いを慈しむ生活がしたいと、心の底から願ったのです。それはきっと、恋と呼ばれるものなのではないでしょうか。
それが、貴女が俺に与えてくれたような、本物の愛ではなかったことは確かです。その証拠に、貴女が亡くなったと知った俺は、貴女の遺言に背いて貴女の後を追って死にました。
そんなものは、愛ではないのです。
相手がいなければ自分は立っていられない、相手が死んだなら自分も死ぬ。それは身を焦がす恋ではあっても、相手を本当に大切に思う愛ではないのです。
暦を見ると、貴女がどれだけの日々を重ねてきたか分かって、感慨深いですね。
今やっていることに誇りを持てず、日々を無為に過ごしていると思われるのかもしれませんが、そんなことは考えなくて良いのです。
貴女は、貴女であることに価値があるのですよ。それを、貴女も信じてくださいね。
貴女に言い付かった五年の旅を終え、貴女のところへ戻った俺が目の当たりにしたのは、貴女の庵のあった場所に建てられたひとつの小さな碑だけでした。
村の者に貴女が二年も前に亡くなっていたと聞かされた時の、体中から力が抜けるような底無しの喪失感を、今でも鮮明に覚えています。
ですから、こうして貴女が何度も何度も生を受けること、そしてそれを間近で見守れることは、俺の心を何より慰め、幸福で満たしてくれるのです。
あの恐ろしい喪失感を、俺が感じることはもうないでしょう。
貴女の魂があの大きな廻り続けるものに回収されるまで、俺は貴女にお供します。そして貴女の魂が回収される時、俺たちも共に回収され、あの大きな廻り続けるものの一部に戻ります。つまり、貴女と本当にひとつになれるのです。
ああ。俺は貴女を失うことが二度となく、あんな喪失感や息のできないほどの悲しみにも金輪際浸らなくていい。
そんな無上の幸福を与えられていることに、俺は心から感謝しているのです。
世界にたった一つの、俺の大切なもの。それは勿論、貴女です。
どれだけ大切にしてもし足りない、どれだけ愛しても愛しつくせない。
貴女というひとを、心から、何よりも、愛しています。