貴女は、雨の中にひとり佇む人にはならなくて良いのです。
悲しいことがあれば、誰かの胸を貸してもらって泣けばいい。
嬉しいことがあれば、皆と踊り狂えばいい。
貴女は、人と交わり、人と共に在るのが良いのですよ。
そして静かに佇んだりせず、わいわいと賑やかに、その時間を楽しんでくださいね。
俺は別段、自分の記憶力がいいとは思いません。
けれど、貴女のことなら何でも覚えている自信があります。俺は貴女の日記帳のようなものです。
貴女が産まれた瞬間の、元気な産声。
貴女が初めて歩いた時の、貴女の笑顔。
貴女がご友人たちと過ごした日々。ご家族との時間。
そういうものを、俺は克明に覚えています。
貴女が忘れてしまっても、俺はずっとずっと、覚えています。
貴女は、どんな人間とも正面から向き合う方でした。
それが無垢な子どもだろうと、思い悩む青年だろうと、俺のような狼藉者だろうと、貴女はその向かいにそっと腰掛け、その者の心と語り合おうと努力されました。
今の貴女もそうですが、あの当時の貴女と違うのは、今の貴女は誰にでもそうするわけではない、ということです。それは俺たちにとっては、大変にありがたいことです。
何せ、本当に危険な人間というものは、改心する可能性がないのですから。貴女がどれだけ真摯に向き合ったところで、彼らは貴女を搾取するだけでしょう。
ですから、貴女が今人を選んでいらっしゃるのは、とても良いことなのですよ。貴女はそれを「人を選り好みしている」と思い、罪悪感を感じることもおありですが、どうかその自責はなさらないでくださいね。
昨夜の貴女は、何もかもがやるせない、全てが無意味で空しいというような気分で、布団に横たわっていらっしゃいました。
そういう気分に陥る日もありますね。
けれど、貴女は強くなりました。その気分に飲み込まれて絶望するのではなく、今自分の心をいたわるためにできること、つらさを軽減するのに役立つこと、そういうことをひとつずつ試し、実際少し元気を取り戻すことができました。
ええ、貴女は一歩ずつ進んでいます。
貴女の気分を大切に、貴女自身を慈しむことを学び、実践しています。
そのことに誇りを持って、日々を楽しんで生きてくださいね。
あの大きな廻り続けるものに回収されることは、母なる海へ戻るようなものなのでしょう。
俺も、貴女も、あの大きな廻り続けるものから分化した魂です。それが俺たちの故郷であり、最終目的地です。
分かっていただきたいのは、魂を回収されることは悲しいことではなく、魂にとっての救済なのだということです。
貴女はその時、最後かつ最高の、魂の安寧を得るのです。