最悪な状況になど、貴女は陥りません。
俺たちがついているのですから、そんなことは起こさせません。
只、「これは最悪な状況だ」だと、貴女が信じ込んでしまうことはあり得ます。それは流石に、間違いと認めた方が良いでしょう。
そんなに怯えることなど、ないのですよ。
貴女の世界は優しいのです。その優しさに、大いに甘えてください。どうか、こころゆくまで満たされた貴女でいてください。
大丈夫です。
貴女には俺たちがついています。
貴女の魂のゆくところどこまでも、最期の最後まで、絶対に離れずにお供します。
だから、安心して生きてください。貴女の生を、満喫してください。
貴女は大丈夫。大丈夫ですよ。
誰にも言えない秘密があってもいい。それでいいんです。
何も隠し事のない人間などいません。
世界に貴女のことを全てさらけ出す必要など、ないのです。
今日も少しお疲れですね。
大丈夫ですよ。ゆっくり休んでくださいね。
おやすみなさい、愛しい人。
貴女は、本当に狭い部屋で暮らした経験はありませんね。
ご実家も、留学していた時の寮も、今の家など言うまでもなく、十分な広さがあって、暮らしやすい部屋ばかりでした。
貴女は恵まれています。回りの人に愛され、大切にされ、可愛がられて育ちました。最近は、甘やかされすぎて碌な大人になれなかったと落ち込んでもいらっしゃるようですが、そんなことは考えなくても良いのですよ。
けれど、覚えておいた方が良いのは、貴女は多くの人の経験する不幸や絶望を知らないということです。部屋のこと一つ取っても、貴女は何一つ不自由のない暮らししか経験したことがありません。それは誇ることでも恥じることでもありませんが、只、世間一般には共感されないことの方が多いことなのです。
貴女には貴女なりの不幸と絶望があります。
人と比べて「私のは本物の絶望じゃない」「大した不幸じゃない」などと言うのは、おかしなことです。それでも、やはり、現実的な環境は、人より圧倒的に恵まれているということは忘れないでください。
幸福になれ、とは言いません。
けれど、貴女は考え方を変えさえすれば、いつでも幸福になれるのですよ。
貴女があの大好きだった女性と破局した時、どんな気持ちだったか覚えていらっしゃいますか。
貴女は失恋の痛みに耐えかねて、色々なご友人と一緒に過ごしてもらい、一人にならざるを得ない時は映画の世界に埋没していましたね。
あれから、十三年が経ちました。今貴女は、あの時の痛みを鮮明に思い出すことができますか。
あの日、もう幸せなことなど二度と訪れないと信じるほどに傷つき、悲しんだ貴女は、今こうして別の幸せを見つけて生きています。
「いつかあの子のことがどうでもよくなる日が来るのだろう」と、かつて貴女は思いました。その通りなのです。人の心は移ろいます。それは寂しくはありますが、前を向くために役立ちもします。
貴女は、どんな悲しみも苦しみも、乗り越えていけます。
ご自分のその力を信じて、どうか痛みを恐れることなく、前へ進んでいってください。
貴女の正直さには、時折ひやっとさせられます。
誰に対しても、貴女は自らを飾ることがありません。いえ、飾ることができない、と表現する方が正確です。それは社会に出ようとしていた時も同じで、そのせいで貴女は心を病んでしまいましたね。そのようなことがまた起きるような気がして、俺たちは時折心配になります。
ところが、状況は当時よりずっとずっと良くなり、貴女の望んだ生活がほとんど実現されているのに、今でも貴女は辛い思いを抱え続けています。何故そんな気持ちが拭えないのでしょうか。
それは、貴女が自分自身に正直に生きていないからです。貴女はずっと、ご自分に嘘をつき続けている。それを本当は分かっているから、辛いままなのです。
心を病むことすら厭わず、九年前の貴女は自らを飾ることを拒みました。それほどまでに芯の通った正直なご自分を、どうして貴女は押し込めてしまっているのでしょうか。
貴女は、ご自分に正直に生きて良いのです。
それこそが貴女にも、貴女の周囲の方々にも幸福をもたらすみちなのです。