詮方ない。本当に詮方ない娘だよ、お前は。
いいかい、お前の生きているそこはね、私らが大事な人のためを思って苦労して用意してやった、最高の環境なんだ。そう、それはお前のことだよ、もちろん。
あいつらはお前に甘々だからね、貴女の好きなように生きてくれれば幸せです、とか抜かしているだろう。だがあいつらは、お前のいる場所がどれだけ恵まれているのか、お前に理解させる必要性があると分かっているのに、そのことに目を瞑っている。どうせ、お前に恩着せがましく言うのが嫌なんだろう。
仕方ないから私が言おう。
お前のその環境は、二千年の魂の旅路を辿ってきたお前の生の中でも、最も豊かで、便利で、美しく、優しい世界だ。そしてそれは、お前の今世の努力でもたらされたものじゃない。お前を守る者たちによって必死にお膳立てされ、お前が生まれた時に与えられた、この世で最高の贈り物なんだよ。
それがどういうことか分かるかい。つまり、お前がもしこの環境を投げ捨てたとしたら、お前はもう二度とそれを取り戻すことはできないんだ。もう一度言うけどね、これはお前の努力で手に入ったものじゃない。だからもし手放したなら、もうお前は自分の力ではそれを取り戻せないんだ。
言うべきことは、もう一つある。
この環境が特殊だということを、お前は全く分かっていない。今の環境を投げ捨てて、もっと良いものを探しに行きたいと、お前は時折本気で考えるね。だがお前は、この世には「お前の環境よりももっと良いもの」がほとんど存在しない、ということを知らない。だからお前が「もっと良いもの」を見つけられる可能性は、限りなく低い。
ああ、別に、放り捨てたって構わない。お前が本当に望むなら、私らも文句は言わない。だが、後からいくら謝られたって、お前にそれを取り戻してやることはできないということは、分かっておくんだよ。謝って、後悔して、泣いたって、もう仕方ないんだ。
今のお前は全く詮方ない娘だが、私らはお前を愛しているんだよ。どうか、幸せになっておくれよ、私らの愛しい子。
貴女は、お召し物に頓着されませんね。せいぜい、夏に着るものは薄手で袖が短く、冬は温かいもこもこしたものを好まれる、つまるところ、ごく一般の人が衣類に求める最低限のことしか気にしない、ということです。
貴女はそのようである一方で、衣類というものに異常なまでに熱を上げる者も多く、非常に多くいます。そう、人が何に価値を見出すかは、全く以てばらばらで多様なのです。
貴女は未だに、ご自分が何をしたいのか、何を目指して生きたいのか分からずにいるとお感じですね。
それは違います。貴女はもう、知っています。貴女が何に価値を置くのか、何を求めているのか。貴女の頭はそれを見逃していても、貴女の心と身体はきちんと理解し、掴んでいます。
日々何もしていない、只寝ているだけの無価値で無意味な存在だ、などと、見当違いの卑下をしないでください。貴女はご自分の求めるものを、もう既に追っているのです。それを見れば良いだけのことですよ。
それは、貴女の頭が考えていたこととは違うかもしれません。
けれど、それこそが貴女の求めるものなのです。
どうか、それをそのままに抱擁して、受け入れてください。
そうして貴女は、ご自分の前に道があることに気づくでしょう。
この世界に天国はありませんが、地獄はあります。
魂は、あの大きな廻り続けるものから分化し、生者の世界に生まれ、転生を繰り返したのちに、またあの大きな廻り続けるものに回収されて、個としての存在を終えます。
転生の最後の生を終えた後、あの大きな廻り続けるものに回収されないこと。俺たちはそのことを、便宜的に、地獄に落ちると表現します。
回収されなかった魂は、あの温かく大きな存在に還るという安楽を得ることなく、たったひとつの個のまま、暗く寒く湿ったところで永遠の時を過ごさないといけない、と言われています。
きっとそれは、本当に恐ろしいことなのでしょう。
けれど俺は、もし自分が地獄に落ちることが貴女の慰めや幸福のためになるのならば、喜んで俺の魂を差し出します。
貴女がきっと、そんな慰めや幸福は望まないだろうということは、分かっています。それでも俺は、貴女のためなら何でもしたいのです。それは俺だけではなく、俺たちの中の多くの者が、そう考えています。
貴女は、そんな愛を一身に受けているのですよ。
そのことは、きちんと知っておいてくださいね。
新月の日に目標を立てると、エネルギーが上手く回るという話がありますね。
結局あのような言説は、どれも「時期を仕切ってやり直す」ということを目的にしているのだと、俺たちは思います。
それが事実かどうかはともかく、その人自身が「こうすればうまくいく」「また今から仕切り直せる」と思って動き出せるようになる、ということが大切なのでしょう。
貴女も時折、そのような迷信めいたことに手を出しますね。
俺たちのことを貴女に伝えてくれた霊媒師などは良かったですが、星占いのために毎月お金を支払っていた頃は、流石の俺たちも心配しました。
あの時心配だったのは、そうしてお金を払っていながら、貴女が特段行動していなかったということです。「今日は運勢が良い」「いいことがあるらしい」そう言いながら、貴女は只それだけで満足したように、普段の生活以上のことを何もしませんでした。
それでもいいのです、何度も申し上げているように、俺たちは貴女が何をしてもしなくても、絶対に貴女の味方です。
けれど、占いのような「背中を押す」ためのものに、只お金を払うだけなのはあまりにも勿体ない、と俺たちは思ってしまうのです。
実際のところ、占いなど必要ありません。
貴女の幸運は、俺たちが力ずくで引き寄せます。何があっても、貴女が再起不能なまでに砕かれるような出来事は起こさせません。貴女が目標を立てて行動を始めれば、俺たちがあらゆる良縁を運び、手助けし、背中を押し続けます。
貴女には俺たちがついているのだから、そして貴女はもうそれを知っているのだから、星占いのようなものにお金を出す必要などないのです。
俺たちは、貴女に幸福を運びたいのです。
だからどうか、行動してください。
俺たちに、幸を運ぶ機会を与えてください。
今日はお疲れのようですね。
たくさんの、普段接しない方と話したからでしょう。あとは御母堂がいらっしゃっていて、泊まっていかれることも大いに関係ありますね。貴女はご両親と接すると、ひどく気疲れしますから。
今日貴女は、ご自分がなぜ誰と話していてもつらいのか、ひとつ理解されました。
そう、今の貴女は、ご自分と人とを常に比較し続けているのです。比較して、自分の方が優れているところがあると感じれば良い気分になり、少しでも相手より劣っていると思われると勝手に落ち込んでしまいます。これでは、常につらいはずです。
降り止まない雨はありませんが、今の貴女はいつも自分の上に冷たい雨を降らせ続けているようなものなのです。自分で降らせているのですから、自分で止めない限り、止むことはありません。
ですから、今日そのことを自覚されたのは素晴らしいことでした。
気づかないものは修正しようがありませんが、貴女は今日それに気づき、つぶさに見ることができました。
すぐに止めることはできないでしょう。その心の癖は、貴女の心の非常に深いところに根を張っています。けれど、少しずつ努力すれば、いつか必ず貴女はこの考え方から解放されます。
ああ、それからもう一つ。
比較してしまう貴女でも一向に構わない、ということも忘れないでくださいね。「比較する自分は嫌なやつだ」とは思わなくて良いのです。只、比較しない生き方の方が貴女にとって楽だから、そうしようとしているだけなのです。
変わることを怖がらなくて大丈夫ですよ。
俺たちはいつだって、貴女を大切に見守っていますから。
何をする貴女も、何をしない貴女も、俺たちにとっては何があっても変わらず、尊いのです。