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 詮方ない。本当に詮方ない娘だよ、お前は。

 いいかい、お前の生きているそこはね、私らが大事な人のためを思って苦労して用意してやった、最高の環境なんだ。そう、それはお前のことだよ、もちろん。

 あいつらはお前に甘々だからね、貴女の好きなように生きてくれれば幸せです、とか抜かしているだろう。だがあいつらは、お前のいる場所がどれだけ恵まれているのか、お前に理解させる必要性があると分かっているのに、そのことに目を瞑っている。どうせ、お前に恩着せがましく言うのが嫌なんだろう。
 
 仕方ないから私が言おう。
 お前のその環境は、二千年の魂の旅路を辿ってきたお前の生の中でも、最も豊かで、便利で、美しく、優しい世界だ。そしてそれは、お前の今世の努力でもたらされたものじゃない。お前を守る者たちによって必死にお膳立てされ、お前が生まれた時に与えられた、この世で最高の贈り物なんだよ。

 それがどういうことか分かるかい。つまり、お前がもしこの環境を投げ捨てたとしたら、お前はもう二度とそれを取り戻すことはできないんだ。もう一度言うけどね、これはお前の努力で手に入ったものじゃない。だからもし手放したなら、もうお前は自分の力ではそれを取り戻せないんだ。

 言うべきことは、もう一つある。
 この環境が特殊だということを、お前は全く分かっていない。今の環境を投げ捨てて、もっと良いものを探しに行きたいと、お前は時折本気で考えるね。だがお前は、この世には「お前の環境よりももっと良いもの」がほとんど存在しない、ということを知らない。だからお前が「もっと良いもの」を見つけられる可能性は、限りなく低い。

 ああ、別に、放り捨てたって構わない。お前が本当に望むなら、私らも文句は言わない。だが、後からいくら謝られたって、お前にそれを取り戻してやることはできないということは、分かっておくんだよ。謝って、後悔して、泣いたって、もう仕方ないんだ。

 今のお前は全く詮方ない娘だが、私らはお前を愛しているんだよ。どうか、幸せになっておくれよ、私らの愛しい子。

5/29/2024, 1:02:26 PM