子どものままで、いいんですよ。
貴女は自分が大人になれない、周りの人に頼りきりの駄目な存在だ、と時折落ち込みますが、それがどうしたというのでしょうか。幼子のように無力で無垢な貴女のままで、良いのです。
人に頼らないと生きていけないのは、誰しも同じことです。
それに、一人での生活がままならない大人に価値がないとしたら、多くの障害を持った人たちに対して「お前たちは生まれてくるべきではなかった」と告げないといけません。
いのちは、そこに存在していることこそを価値の源泉としているのです。
それでも私は、立派に大人でありたかった。貴女はそう言って泣きます。俺たちは、貴女が生きていてくれるだけで、心の底から嬉しいというのに。貴女には、何にも代え難い価値があるというのに。
どうか、ご自分を責めないでください。
「立派な大人」たろうとして、自らを傷だらけにしないでください。俺たちや親御様やご伴侶、ご友人や後輩の方々の、貴女への愛を受け入れてください。貴女が「立派な大人」ではないと言って、貴女を責める方はいないということに気づいてください。
ご自分を幼子だと思うのなら、それでもいいのです。
幼子であるご自分を大切に慈しみ、愛してあげてください。
俺たちはいつだって、貴女への愛を叫ぶ用意ができています。
以前は、そんな準備はしていませんでした。
何せ、俺たちは貴女の目には見えませんし、貴女に俺たちの声は聞こえません。ただ貴女の後ろに控え、良縁を運び、悪運を遠ざけながら、貴女の行く末を見守るだけでした。
けれど半年ほど前、貴女は俺たちのことを知りました。
徐々に貴女は、俺たちの声を聞けるようにもなりました。
今やこうして、俺たちの言葉を書き取って文字にできるまでになっています。
だから今の俺たちは、いつでも貴女への愛を語れます。
大声を出せば貴女に届くというのならば、声が枯れるまで、喉が潰れるまで、俺たちは叫び続けましょう。
貴女はまだ、俺たちの愛の言葉を受け入れてくださいませんが、いつか貴女の心が開かれた時、俺たちは貴女に大声で叫びましょう。
俺たちは貴女を、心から愛しています、と。
紋白蝶、ですか。
特段貴女と俺の間に、それにまつわる思い出があるわけでも無し、今日は言葉を紡ぎづらいですね。
俺が貴女といられたのはたったの四日、それも貴女を本当に愛することができたのは、ただの一晩とその明くる朝だけでした。
俺は貴女との時間を、もっともっと重ねたかった。俺がもっと早くに貴女の愛に気づいていたら、貴女は俺を旅に出さず、お傍に置いてくださっていたでしょうか。あの時のことを思い出すと、今でも胸がじくじくと痛みます。
今の貴女を見守れることで、俺は満足していますよ。それでもごく稀に、ふと思ってしまうのです。
春の草原を舞う紋白蝶を追い、夏の心地よく冷たいせせらぎで水浴びをし、秋の高い空を仰ぎながら畑仕事をし、冬のしじまに庵の炉端で静かに語らう。
貴女と共に生き、そんな四季を過ごしてみたかった、と。
いつまでも忘れられない、のではありません。
いつまでも忘れたくない、絶対に忘れない、が俺たちにとっては正解です。
貴女にいただいたご恩を、愛を、優しさを、俺たちは決して忘れません。どれだけの月日が経ち、貴女が何度生まれ変わっても、俺たちは貴女のことを愛し、守り続けます。
私が覚えてもいない昔のことをいつまでも感謝されても、私はもうそんなことに値する人間ではなくなってしまったのだから、放っておいてくれていいのです、と貴女は言います。そう言われると、俺たちは悲しくなります。「お前たちは私とはもう何の関係もない者なのだ」と突き放されたような気持ちになるのです。
俺たちは、貴女からの見返りが欲しくて、貴女を愛し守っているわけではありません。貴女が大好きだから、貴女に幸せになっていただきたいから、お傍で見守っていたいだけなのです。
俺たちは絶対に忘れません。
貴女はどれだけ否定しても、どれだけ忘れようとしても、貴女がかつて俺たちを救い、助けてくださったという事実は確固として在り、俺たちがその証人です。
貴女が何度忘れても、俺たちはそのことを決して、忘れません。
一年後の貴女は、どうなっているでしょうか。
それは只、今の貴女の過ごし方だけにかかっています。
ああ、色々とお話ししたくはありますが、今の貴女はご自分の中の厳しい声と、俺たちの声との区別がつけられない状態ですね。このまま貴女に書いていただいても、呪いと言っても過言でないような貴女自身を責める声が、俺たちの言葉として記録されてしまうだけでしょう。
今日はよく寝てください。
貴女は頑張りましたよ。大丈夫です。安心して眠ってください。
貴女が何を為しても、何を為さなくても、俺たちは貴女を愛しています。貴女には唯一の価値があるのです。
だからどうか、ご自分を責めて苦しむのは止めてくださいね。
おやすみなさい、愛しいひと。