お題『良いお年を』
良いお年を、なんて言ってる間にすぐに年があけてしまった。今年は最後にした親族の宴会で「良いお年を」って言えたのが良かった。去年までは、大晦日でいろいろやらかしたり、朝起きた瞬間体調を崩していることがそこそこの頻度であったからだ。
うちの家族は大酒飲みの集まりで、大量にあったはずのビールやチューハイの缶がおそろしい勢いで消費され、誰かしらが毎回のように日本酒を持ってくるのでそこで追い打ちをかけられることが多い。
たしか去年は、案外お酒を飲んだ後、日本酒もそこそこ体に入れたので朝起きた瞬間から気持ち悪くてずっと水分を摂取し続けていた記憶がある。元旦の飲み会もお酒の他にお茶を持参してあまり量を飲まなかった。
今年はお酒の量を控えめにして、日本酒もお猪口二杯分で済ませたのでなんと体調は良好である。
お酒を楽しみにしても体調に支障がでないことはいいことなので、これからもそれで行ければと思ってる。
お題『一年を振り返る』
なにも変わらないようでいて変わった一年かな、と思う。
相変わらず人に好意を抱くことはできないし、友達も少ないけどどうにか生きてる。
下半期は、社会人サークル行ってみたらその後、何回か遊ぶようになって交友関係がすこし増えて楽しいなぁと思った。
だけど、喋りが上手い人や、私よりも創作に情熱を燃やしている人と話すと自分がどうしようもなくみじめな存在に見えてきてしまい、楽しいし刺激になるけど話したらどうしてか死にたくなってしまう。
それが今の私の課題。
お題『みかん』
「小説界隈で神になってみんなから崇められたい」が口癖の友人がいる。
同じオタクでたまたま趣味があってからというもの、私は彼女とつるんでいるが、それにしてもこいつ、口先だけである。
最初は、「神絵師か神字書きになりたい」と言っていた。だが、私がXで描いた推しカプの絵がそれなりにバズってから彼女の目標は「神絵師と神字書き」から「神字書き」にシフトした。
あまりに「神字書きになりたい」ばかり言うので、さすがに「作品書いてるの?」と聞いてしまった。
そしたら彼女、視線を左右に泳がせた後、
「書いてはない」
「書いてない? マジで」
「でも頭のなかにあるの」
「じゃ、アウトプットすればいいじゃん」
「いや、でも出してブクマが一桁だったら凹むし、上手くなってから出すつもり!」
いや、ブクマ一桁でもいいから出せよ。という言葉が出そうになる。
が、そこはこらえて
「とにかく書こ。それが神字書きへの第一歩だよ」
「え、でも第一作から鮮烈デビューを……」
「それは大体は別のアカウントで経験を積んだ人が新規アカウント作って初めて成し遂げられることなんだよ。さ、書こう。頭のなかに未刊の大作があるんでしょ?」
「あのえっと……」
これは友人のためというよりも、推しカプ作品を一つでも世に放つためだ。一生懸命になれるのは、私のエゴのためだ。私は友人が頭に描いているネタを見て一緒にブラッシュアップした。
お題『冬休み』
今年は休みが長過ぎる。
学生時代だったらものすごく喜んで、一日中遊んだりしていた。さすがに受験期の時はひたすら勉強ばかりしていたけど、とにかくゲームしたり、美味しいものを食べたり、部活やらサークルやらに勤しんでたと思う。
今は社会人になって何年も経つ。掃除したり、家族のためにご飯作ったり、親せきが来るからその宴会用のご飯を作ったりと意外と忙しいのだが、休みが長いと余計なことを考えがちでふと思うのは「はやく仕事始まらないかな」だ。
今年もきっとそんなことを考えそうで、学生時代からの変化に毎年驚いている。
お題『手ぶくろ』
いつも手袋して授業を受けている女子がいる。それも一回はめたら使い捨て出来るようなものだ。
彼女のまわりに人はいなかった。
「うちらには触りたくないってか」
「うっわー、感じ悪。こっちからお断りだよ」
気が強い女子が彼女に聞こえるように陰口を言うたび、彼女がおびえているように見えたのがいたたまれなかった。
ある時、テスト勉強するために入った図書室で彼女と鉢合わせた。
「よっ」
と言いながらたまたま彼女の目の前の席が空いてたのでわざと座ると、彼女は居心地悪そうに下に向けてる視線を更に下に向けた。
「あ、はい」
彼女はそれだけ答えて勉強を続ける。逃げるのも感じ悪いからその場にいる、というだけだろう。ビニール手袋に包まれた手に握られたシャーペンがノートに文字を書き続けているのを見て、俺は不意に彼女に話しかけたくなった。というか今まで気になって仕方ないことを聞いた。
「ねぇ、なんで手袋してるの」
その瞬間、彼女の手が止まった。目に涙が浮かぶのが見える。あ、やべと思った。でも、彼女は逃げる素振りを見せないから応えてくれるまで待つことにした。
彼女が震える唇で言葉を紡ぎ出す。
「わたし、汚いから」
「なんで? べつに汚くないと思うけど。さすがに風呂入ってなかったら臭いけど、君はべつに臭わないし」
「私に触ると穢れる。小学校の時ずっとそう言われ続けてきたの」
くだらね。率直にそんな感想が浮かんだ。あれだ、小学校の頃のいじめでよくあるやつだ。『●●菌』とかいうあれ。一部の男子がやってるのを見たことがあるけど、内心くだらないと思ってたし、そのいじめられてる子の机運んで「うわ、お前感染してんじゃん! 俺に近づくんじゃねーぞ!」っていじめの主犯格に言われた不愉快な思い出が蘇ってきた。
俺は思わずため息をついてしまった。その瞬間、彼女が「ごめんなさい」と言いながら席を立とうとする。とっさに立ち上がって、その手をつかんだ。彼女がひって言うのが聞こえた。
俺はわざとその手袋をはずす。色白で指がきれいなちいさな手だ。
「ほら、べつに俺なんともなってねーよ」
それでも彼女は口をパクパクさせていた。しばらくその状態が続いた。だけど、さすがに気の毒になって手をはなしてやると、彼女は逃げるように図書室から出ていってしまった。
完全に嫌われたかなと思った次の日、彼女は学校に来ていて安心した。相変わらず手袋をつけていたけど。
今日も放課後、テスト勉強しに図書室へ向かおうかと思った矢先、後ろに気配を感じた。
うつむいて歩く彼女の姿があったからだ。その子はなにか言いたげに俺のことをちら、ちらと伺うように見ていた。
「なんか話したいことでもあるの?」
と聞くと、こく、と頷く。
図書室以上に人がこなさそうな場所。とりあえず、屋上で話を聞くことにした。
「えっと、話って?」
「あ、あの……えっと……」
クラスメイトが言葉を探している。手袋に包まれた手がガサガサ音がした。普通ならいらつくところだが、せっかく彼女が話してくれるのだから待つことに決めた。
「わ、私に触っても……べつに汚れないよね?」
「あぁ、うん。そうだけど」
「な、なにもなって、ない?」
「なるわけないよ」
「もしかして、▲▲くんだけが平気ってことかな……」
その理論に思わずずっこけたくなった。またため息をついてしまう。クラスメイトがまた震えた。いや、いちいちびびんなよ。
「俺だけじゃなくて、みんな平気だと思う」
「でも、みんな『願い下げだ』って」
「それは君が手袋してるからだろ。今度から外してみたら? いじめがトラウマなのはわかるけど」
「いじめ……」
彼女がなにか考え込むように下を向く。やがて
「わかった……、すこしずつだけど、がんばる」
そう言ってクラスメイトは屋上から学校に戻っていった。俺なんかはくだらないなと流せるが、なかにはそれが出来なくて呪縛にとらわれてる人もいるんだ。そう思うと、なんだかやるせない気持ちになった。