お題『変わらないものはない』
あまり人とかかわらないようにして生きてきた。
いるだけである日突然嫌われたり、喋ったことがある相手が別の人と私の陰口を言っているのをみたことがあるからだ。あと、たくさんの人の中に入ると私は喋れなくなることがある。少人数だったら喋れる。
私はいるだけで気持ちが悪い害悪なのか。
そういえば、昔の職場の先輩社員から言われたことがある。
「ひょっとしてお前、俺のこと見下してる?」
って。そういうところが自覚無しに私の喋り方から出てるのだろうか。いや、そういうことを言う先輩社員がそもそもアレなんだけど。
話が脱線した。最近、私はどういうわけか人と関わる機会がすこしずつ増えていってる。たしかにずっと一人で生きているのは退屈だ。
だが、嫌われてしまわないようにネガティブなことを可能な限り言わないようにしたり、喋らないやつというレッテルを貼られないように立ち回ったり、喋るにしても言葉が無自覚にきつくなっていないか気をつけながらやり過ごそうとしている。
今が変わる時なのかもしれない。
お題『クリスマスの過ごし方』
まえはクリスマスが近くなるとそれっぽい音楽を聴き、ちいさなクリスマスツリーを出して、自分のためだけに一人分のケーキと安くてすぐに飲みきれそうなシャンパンを買って過ごしていた。
だが、何年もこういう生活をしているとクリスマスだからといっていつもと変わらない日常を送っても「もったいない」と思わなくなった。
普段と変わらず好きなアーティストの音楽を聴き、クリスマスだからといってそれっぽい料理を食べたりしない。シャンパンは、缶チューハイに変わった。ついでにツリーは今年は出さなかった。
いつもと変わらない夕食。だけど、それで十分満足してしまっている私がいる。
お題『イヴの夜』
「ママァ、あの人たちなぁにぃ?」
「見ちゃだめよ」
そう言って俺たちの前を親子が足早に通っていく。もしかしたらいつかお前の息子が俺たちみたいになるかもしれない、なんて一ミリも考えていないんだろうなと思う。
俺たちの住む村では、十八以上になって誰も恋人や伴侶が見つかっていない人間はクリスマスツリーの見える通りの端で晒し者にされる習わしがある。
首からプラカードを下げて「恋人募集中」やら「結婚相手募集中」と大きな字で書き、その下に自分のアピールポイントを細かく書く。さすがにクリスマスツリーやイルミネーションは地元ながらとてもきれいなので世の家族、カップルどもが見とれてくれているし、人混みのせいかそこまで目立っているわけではない。
だけど、たまたま俺たちと目が合った者は、ある者は同情的な目で見、ある者はさっきの親子みたいに見てはいけないものだとして扱い、ある者はスマホで撮影してくる。
大人になっても恋人や独身というだけでこんなにミジメなことってあるだろうか。
俺たちの中には、手を差し伸べて貰える人間がいる。年収が高かったり、若い女の子だったり、比較的容姿が端麗な者だったり……ため息をつきたくなる。
ちなみに俺は今年も残っている。二十七歳、年収最近やっと四百万いったばかりの社畜、中肉中背……たぶんブサイクではない。普通すぎて印象に残らないのだろう、きっと。実家暮らしが楽すぎて十八になった瞬間に村を出る友人をバカにしていたあの頃の自分を叱りつけてやりたい。
あ、そこのかわいい貴方。目が合いましたね。お願いです、俺を貰ってくれませんか? 頼みます、頼みます。あぁっ、ちょっと! 逃げないでくださいよ、ちょっと!
お題『プレゼント』
友達付き合いをないがしろにしてきた。ついでに恋人なんていたことない。
家族の誕生日は忘れたことはないが、今も付き合いがある親友の誕生日は正直覚えていない。
私がこんななので、実家を出て一人暮らしして以降、誕生日を祝われたことがないし、私も誕生日というものにとくになんの感情を抱かなくなってしまった。
そんな時、たまたまマッチングアプリで二回目に会う男性からちいさなピンクのバラ一輪の花束っぽいのを渡された。とつぜんのことだった。
「これ、なんですか?」
と聞いたら、彼はおどろいたような顔をして
「今日って誕生日じゃなかったでしたっけ?」
と言われた。たしかに今日はたまたま私の誕生日だ。そういえば先週会った時、そんな話をした気がする。
「たしかに今日ですけど、まさかもらえると思ってなくて」
「あ、あのいやでしたか?」
男はすこしだけ悲しそうな顔をした。知り合ったばかりの人からプレゼントされて困惑しているのは事実だが、その一方で悪い気がしていないのも事実。
「いいえ、ありがとうございます。普段あまり人から祝われることがないので嬉しいです」
「ほんとですか! じゃ、これからなんかの記念日にたくさん祝いましょうね!」
バラの一輪を受け取ると、彼が嬉しそうに顔をパァっと明るくさせる。
正直まだこの目の前の男と付き合うかどうかは分からないが、人から祝われるのは嬉しいものなんだな、と何年か前に家族からやってもらった誕生日パーティーで受けた温かい感情を思い出していた。
お題『ゆずの香り』
たまに飲むと美味しいものがある。
ジャムみたいなびんにゆずを果実の蜜に漬けたものが入っていて、それをスプーンでひとさじコップに入れてそこにお湯を注ぐ。
それを飲むと甘くて温かい飲み物が完成する。湯気からほんのりゆずのいい香りが漂ってきてそれがまたいいんだ。