お題『愛を注いで』
サークルのメンバーのみんなにカップケーキを作ることにしたの。
クリスマスパーティーに持っていってみんなで食べられるように。
だけど、好きな彼の分だけ特別に私の『愛』をトッピングしてあげる。
食べたら最後、最初に見た相手のことが好きで好きでたまらなくなる薬。
これは絶対に私が彼に手渡ししないといけない。
あぁ、クリスマスがくるのが待ち遠しいなぁ。
お題『心と心』
私達は二人一組の魔法少女だ。今、わけあって絶賛喧嘩中。
おともの妖精がちいさな体を揺らしながら「はやく仲直りしなよー」って慌てている。妖精が慌てるのも無理はない。私達は、手をつながないと変身することができないのだから。
今までも喧嘩はそこそこしたけど、うまくやってきたつもりだ。だけど、相方が一人敵から情報を得るためにこちらを騙すような真似をしていた。
理由は分かっている。でも私はそれがなんだか許せなくて裏切られた気持ちになってお互いに喧嘩してしまった。
もともと性格は正反対だ。学校で所属しているグループもまったく違う。
(もう、今回ばかりは仲直りは無理かぁ)
そう思ってベッドにうつぶせになりながら横になっていた矢先、突如として轟音が響いた。
敵襲だ。急いで向かわないと! おともの妖精を連れて急いで家を出る。
現場に着いた頃、私は目を疑う光景を目にした。
相棒がぼろぼろの姿になりながら敵に立ち向かっているのだ。敵に蹴り飛ばされては地面を転がり、それでも立ち上がって突進する。
だが、私が知ってる限り彼女の運動能力は高くない。頭が無駄にいいだけのネクラ女だ。
仲直りは無理とか言ってる場合じゃない!
また彼女が敵に弾き飛ばされた時、私はそれを受け止める。意外と衝撃が強く、尻をすりむいた。
割れたメガネ越しに相棒が私を睨む。そのくせ口許はすこしだけつり上がってる。
「あんたとは一緒にやっていけない、じゃなかったの?」
その冷たい言い方、相変わらずムカつく。だけど
「そんなこと言ってる場合? あんたすっかりボロボロじゃん」
「なに泣いてんの」
「はぁ? 泣いてないし!」
と言いながら私は涙をぬぐう。やっぱり仲間が一人で戦ってるのを見過ごせないし、それに、このままなのは嫌だ。相棒がため息をつく。
「感情的なの本当にメンドクサイ」
「あんたは相変わらず冷たいよね」
それからしばらく顔を見合わせて私が「ごめん」と言うと、「私こそ……その、ごめん」と相棒が返す。
たった一言。私たちの間にわだかまりはもうない。敵が大きな口を開けて電磁波をお見舞いしようとしている。
私達は手をつなぐと、二人心を通わせ、すぐさま戦うために姿を変えた。
お題『何でもないフリ』
友達が珍しく愚痴を言っていた。
「職場でさ、新しく入ってきた後輩の面倒をみてるんだけど、その子がちょっと人として問題がある人でさ」
その愚痴を聞けば聞くほど、なんだか友人が気の毒に思えてきた。何度教えても覚えない。それどころか反論する。もしくは声を荒げてブチギレる。会議で的外れな意見を言うことを『自分には意見がある』と勘違いしている。
「ねぇ、それで怒らないの?」
「内心は怒ってるけど、怒ったら負けだからなんとか笑顔でやり過ごしている」
友人のそんな姿が目に浮かんで私は頭を抱えた。
私は納得がいかないことは、上司だろうが構わず言い返すタイプだ。仕事を押し付けられそうになった時ブチギレ、もめた同僚と話し合いした時も暴言一歩手前の応酬に発展した。
強い言葉を使うのは、自分が下に見られたくないからなんだけど、時には友達みたいに一旦深呼吸して、何事も冷静に対応する力が必要なんだと思う。
そんな友達の姿を心から尊敬しつつ、私は自分の行いをすこし反省した。
お題『仲間』
『仲間だから、助けるのは当たり前だろッ!』
操られた僧侶を叱咤激励する勇者の様子を水晶玉に映し出しながら、私は反吐が出る想いがした。
私はこれまで何度も勇者一行に私の配下を派遣してきた。私を殺す存在は跡形もなく排除する必要があるからだ。
だけど、勇者は仲間と力を合わせ幾度となく配下を殺してきた。正直配下など、私にとって肉の盾であり駒でしかない。
しかし、勇者はやたら『仲間』という言葉を連呼し、メンバーを叱咤激励している。その姿がやけに目につく。
その同じ目で私を蔑み、その同じ手で私を理不尽に殴りつけ、その同じ口で幾度となく私に罵詈雑言を浴びせたくせに。
勇者と私は同郷で、幼い頃、事あるごとに勇者は私をいじめてきた。私は彼が大嫌いだった。
村に魔物が攻め入った時、生き残ったのは私達二人だけだった。『絶対に勇者になってやる!』と彼が涙ながらに地面を殴りつけている横で、私は魔物に攫われるふりをして彼等に取り入った。
だから、今この魔王の椅子に座っていられる。
もうすぐ勇者一行は、私のもとに来るだろう。
もし来たなら、貴方が口癖みたいに叫んでるその薄っぺらい言葉を完膚なきまでに否定してあげる。
お題『手を繋いで』
ギャラリーがさわがしい。それもそうだ。俺は今、腕相撲大会に参加していて、もう九連勝している。十連勝すれば優勝が決まり、賞金が貰えるんだ。
次、絶対に勝つぞと息巻いていると次の対戦相手が向かいの席に座る。
俺は目を疑った。可憐な少女だったからだ。年の頃は大体女子高生か? まぁいい、相手が女の子だろうと容赦はしない。俺には優勝がかかってるんだから。
そうして、俺は少女と手を組む。白い肌に小さい手、肌質も俺みたいに血管が浮き出た筋肉質なものよりもずっとやわらかい。女の子と手を繋ぐ機会なんて普段まったくない。正直、役得か。
そんなことを考えてる時に「レディ、ファイッ!」と掛け声がかかる。
相手が女の子だろうと負けるわけにはいかない。悪く思うなよ。そう手に力を込めた瞬間、少女の手の甲に血管が浮きできたのが見えて、気がついた時には俺の手の甲がテーブルの上に叩きつけられていた。あまりの衝撃に痛みを感じる間もなかった。
周りから歓声が上がる。俺は今の状況に混乱しながら少女から手をはなすと、ギャラリーの声援に押し流されるように勝負の場を後にする。
その後も勝負が続いた結果、少女が優勝した。俺はそれまでの間、茫然自失の様子でそれを見続けていた。