お題『さよならは言わないで』
病に臥せっていた友達が死んだと聞いた。ついこの前、遊んだばかりだった。
私がお見舞いに行ったところ、友達が「医者と看護師の許可はもらったから、今度一緒に遊ばない?」と言ってきた。
だから私達はいろんな場所に行った。彼女はとっくに歩く体力をなくしていたから車椅子での移動となった。
地元のショッピングモールをぐるっとまわった後、海が見える丘へ。
海を眺めながら友達が言った。
「ねぇ、もし私が死んだらさ。ここから骨をまいて欲しいってお母さんとかお父さんに言ってあるの」
「縁起でもないこといわないでよ」
「あはは、ごめん」
それからしばらく沈黙が流れる。吹き付ける風は冷たくて、波の音が不規則に聞こえてくる。
私は友達との今までのことを思い出していた。出会ってからずっと一緒にいた幼馴染。それがあまり聞いたことがない病気にかかっちゃってさ。
もうすぐ彼女はここからいなくなる。わかってる。わかってはいる、頭の中では。
「私さ」
「なに」
「さよならなんて言わないから」
「うん」
「っていうか、まだまだ生きててもらわないと困るんだから!」
そう言って私は顔を覆った。彼女からなにか言ってくることはないまま、私達はしばらく丘の上にたたずんでた。
それから何日か過ぎて、私は彼女の葬式に参列している。
棺桶の中でお花に包まれて眠る彼女は病室にいた頃よりも健康そうに見えた。でも目を覚ますことは二度とない。
もう一度、私は心で彼女に言った。
(さよならなんて、絶対に言わないから)
お題『光と闇の狭間で』
目覚ましが鳴った。まだ時刻は朝の五時。
正直、昨日あまり寝れてないからもう一度眠りにつきたいと思う。だけど、二度寝をして遅刻してしまったトラウマが僕にはある。
このまま起きてしまおうか。でも、起きて朝食を食べたとて、仕事が始まるまでの時間をどうやって潰そうかとも思う。
光と闇の狭間で僕の意識が揺れて、結局眠気に負けてしまった。
お題『距離』
なんで女子校にいる女子って距離近いんだろうねって思う。
私、高校から女子校だったんだけど、女子校って移動する時、友達同士で手を恋人繋ぎしながら歩いてたり、お互いに腰を抱きながら歩いている人がわりといたのよ。
私もやられたことあるんだけど、私は居心地悪かったなぁと。
でも、女子同士ってなるとなんで距離が近くなるんだろう。べつに仲良くない女子に抱きつく人もいるし。
不思議だったなぁ、あの頃。
お題『泣かないで』
『泣かないでちょうだい』
そう俺の頭を撫でながら笑っていた母親は、裏で悪態をついていた。隠し通せてると思っていたようだが、小さい頃から俺は気づいていた。
俺は母親の理想の子供ではないらしい。だからせめて笑って貰えるように勉強を頑張った。べつに好きではなかった。
そしたら、目に見えて褒めてもらえる回数が増えてきた。満点を取ったときしか褒めてもらえないのが分かってるから、その分必死になった。
その糸が切れたのは中学卒業間際、俺が第一志望の高校に入れなかった頃だ。母は心底失望した顔をして、受かった第二希望の高校へ行くと言った瞬間、口では「いいよ」と言いながら、裏で
「子どもの頭がよくないと、私が義母さんに怒られる」
と吐いてるのを見た。その瞬間、「この人は自分のことだけなんだな」と冷めた目で見るようになった。
とりあえず学費は払ってもらえている。父親は、もともと育児に関心がない人だった。ただお金だけをくれる人だ。
高校に入って、母親に愛されてないと思った俺は寄ってきた女の子と片っ端から付き合っては遊んで捨てる生活ばかり送るようになった。成績なんて、もうどうでもよくなった。
だけど付き合って五人目になる彼女から
「もっと自分を大事にしなよ」
と泣かれた。なんとなく女の子と遊ぶのに同情を買ってもらいやすい自分の身の上話を屋上でした時だ。この彼女もかわいいけど、一回遊んだら捨てようと思っていた矢先のことだ。
「泣かないでよ」
俺は笑みを浮かべてその彼女を抱きしめる。ちゃんと心が通じたと思って付き合ってくれてる彼女に、なんだか申し訳ない気分になったのと同時、あの母親みたいに「めんどくさいな」という気持ちが芽生えてしまう自分が嫌になった。
お題『冬のはじまり』
今の日本に秋なんてない。ものすごく暑い夏が半年以上続いたと思ったら、もう冬が来た。
秋特有の過ごしやすいほどの涼しさなんて微塵も感じられず、夏から一月くらいしか経ってないのにセーターを着て、その上に分厚い生地のジャケットを羽織るのがちょうどよくなってしまった。
もうすこし昔は季節にグラデーションがあったと思ったけど、温度の変化が急激だからどうしたもんかなと思う。