お題『泣かないで』
『泣かないでちょうだい』
そう俺の頭を撫でながら笑っていた母親は、裏で悪態をついていた。隠し通せてると思っていたようだが、小さい頃から俺は気づいていた。
俺は母親の理想の子供ではないらしい。だからせめて笑って貰えるように勉強を頑張った。べつに好きではなかった。
そしたら、目に見えて褒めてもらえる回数が増えてきた。満点を取ったときしか褒めてもらえないのが分かってるから、その分必死になった。
その糸が切れたのは中学卒業間際、俺が第一志望の高校に入れなかった頃だ。母は心底失望した顔をして、受かった第二希望の高校へ行くと言った瞬間、口では「いいよ」と言いながら、裏で
「子どもの頭がよくないと、私が義母さんに怒られる」
と吐いてるのを見た。その瞬間、「この人は自分のことだけなんだな」と冷めた目で見るようになった。
とりあえず学費は払ってもらえている。父親は、もともと育児に関心がない人だった。ただお金だけをくれる人だ。
高校に入って、母親に愛されてないと思った俺は寄ってきた女の子と片っ端から付き合っては遊んで捨てる生活ばかり送るようになった。成績なんて、もうどうでもよくなった。
だけど付き合って五人目になる彼女から
「もっと自分を大事にしなよ」
と泣かれた。なんとなく女の子と遊ぶのに同情を買ってもらいやすい自分の身の上話を屋上でした時だ。この彼女もかわいいけど、一回遊んだら捨てようと思っていた矢先のことだ。
「泣かないでよ」
俺は笑みを浮かべてその彼女を抱きしめる。ちゃんと心が通じたと思って付き合ってくれてる彼女に、なんだか申し訳ない気分になったのと同時、あの母親みたいに「めんどくさいな」という気持ちが芽生えてしまう自分が嫌になった。
12/1/2024, 1:01:30 AM