白糸馨月

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11/24/2024, 2:47:23 AM

お題『落ちていく』

 気がつくと俺はどこかで見たことあるコースにいた。
 目の前には小さなモンスターが前後に歩いている。だが、俺はおそらく武器の類を持っていないため、そのモンスターをどかすには飛び越えるか、踏むしかないだろう。その先は崖になっている。向こう岸がちゃんとあることから、それを飛び越えろってことなんだろう。
 ふと、自分の体が動かせるかどうか思い立つ。なんと、動かせない。一抹の恐怖を覚えながら俺の視界の左端に縦型の信号を持ったモンスターが現れた。
 赤い信号が三、二、とカウントされ、一で緑が灯る。「ゴー」の掛け声でようやく俺は体が動かせるようになった。だが、どうやら俺の意思ではない。なにかによって俺の体が操作されているようだ。前へ進み、さきほどいた亀のモンスターが意外と大きいことに気がつく。それをなんとか飛び越える。
 さて、次は崖を飛び越えないといけない。
 先へ進み、天の声らしき女の子の声が「あっ」と聞こえた。
 その瞬間、俺は崖で踏み込めずそのまま落下していく。
「あぁぁぁぁぁ、この下手くそォォォォ!!!!」
 そのまま落ちて、気がつくと最初の位置にいた。
 ふと、右の方に視線を向けると俺と同じ服を着た男のイラストの横に「×2」という文字が浮かんでいて、それが俺の残りの命の残量なんだと思い知る。
(これが夢であってくれ)
 と願っている間にまた例の信号が現れて、カウントを始めた。

11/23/2024, 2:04:07 AM

お題『夫婦』

 絶賛、婚活何連敗中の私からすると、夫婦ってどうやってできるんだろーなって思う。
 好きで好きで仕方なくて二人だけの世界に浸って大恋愛でドラマチックに結婚したとしても、そいつは憧れなんだけど、それから冷めきって離婚したって話を聞くし。
 かと思えば、「何年も一緒にいるから、まいっか。他に好きな人が現れないし」で結婚した話を聞く。
 あとは、夫のほうが好きで好きで仕方なくて情に負けて結婚とか。
 昔はお見合いなんてものが主流で、大多数は結婚生活を続けてられているって話も聞く。
 私は好きでもない異性から好き好きアピールされるのが気持ち悪すぎて「私のことを好きでいてくれるからまいっか」という心境になれず、シャットアウトしてしまう。
 自分から相手を好きになるのは決まって夢ばかり追っているクズみたいな輩だ。なんなら普段の生活に出会いがなさすぎて容姿がいい芸能人にガチ恋しては、恋人の存在を匂わされてげんなりするのを繰り返している。
 なら、結局私は私のことを好きにならない、お互いに友達でとどまってくれる関係の人と結婚したいんだけど、結婚って恋愛感情ないと難しいんでしょ? 無理だわーってなってるとこ。

11/22/2024, 3:03:53 AM

お題『どうすればいいの?』

 素直に親の言うことばかり聞いてる人生だった。ちいさい時、私が絵を描いてたら「スポーツも覚えなさい」と言われて、運動嫌いだし、部活に入って迷惑かけるだけなのに「運動部にいたら、根性あると見なされて就職がよくなる」と親に言いくるめられて好きでもない運動を続けてきた。
 大学で入りたい学部もあるにはあった。だけど、親が「資格がとれるところじゃないとね」と言われてそれに従った。
 もうこの頃には親に逆らうことはとうに諦めていた。一度「やりたくない」「私はこれがやりたい」と言ったら、親に「どうして言うこと聞いてくれないの?」と泣かれたからだ。それ以来従うだけ。
 一人暮らしも親に禁止された。「結婚するまでお金をためなさい」と言われたからだ。
 だけど、最近初めて男の人とデートする機会があって、「君はなにが好きなの?」「どこへ行きたいの?」と言われてなにも答えられなくなることがあった。
 考えあぐねているうちに男の人はつまらなさそうな態度でその場ですぐ解散になった。
 その時、どうしていいか分からなくて咄嗟に親に電話した。
「わたし、どうしたらいいの?」
『そんなこと自分で考えられるでしょ?』
 そう言って電話を切られた。私は途方に暮れ、その場で膝をついた。本当に親に言われないとなにも考えられない人間であることを私は改めて思い知った。

11/20/2024, 11:49:49 PM

お題『宝物』

 腐女子であることが母親にバレた。母親が私が部屋に置きっぱなしにしていたBL同人誌を手に取っていたからだ。
 私は思わずカバンを床に落とし所、あわ、あわと震えた。
 すると、母はふ、と不敵な笑みを浮かべ始めた。
「ついてきなさい」
 部屋を出ようとする母に促されるまま、私はついていく。うちにはそういえば地下室があって、でも小さい時から「入らないで」と言われてきたから入らないでいたんだっけ。おまけに地下室の部屋は鍵がないと入れないらしい。その鍵のありかを私は実は知らない。
 母は地下室へ進み、鍵を使って扉を開ける。そこに広がっていたのは、とんでもない光景だった。
 ぎっしり詰まった本棚。それに目につくのは、私が小さい時見ていたアニメのイケメンの等身大パネルだ。
 実は母もオタクだったのだ。その事実を十九年間生きてて初めて知る。
「血は争えないってことね」
 そう言いながら母は、部屋の中に入ると本を一冊取る。それはさっき私が読んでいたカップリングと同じだった。
「お母さん!」
 私は部屋に入ると母親と熱い握手を交わした。

11/20/2024, 3:53:01 AM

お題『キャンドル』

 うちが停電した。懐中電灯はあいにく持ち合わせがなかった。
 仕方なくスマホのライトを頼りに夕食を用意しはじめて……ふと、ろうそくが目に入った。
 スマホのあかりを頼りにごはんを簡単に用意した後、私はなにを思ったのかろうそくに火をつけて、夕食の両脇に置いた。
 あたりがほんのりあかるくなる。だが、不思議な気分だ。いつもの大した事ないサラダチキンだけの食事がなんだかとても厳かな気分だ。思わず
「すべての命に感謝を、アーメン」
 なんて言い出すくらいにはこの雰囲気に浸り始めていた。

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