お題『行かないで』
私は今ゲームに挑戦している。
ベルトコンベアで運ばれてくる豆腐をタイミングを見計らって梱包するゲームだ。そのゲームは、梱包数が増えるごとにベルトコンベアの速度が増していく。たくさん梱包したからといって、全国ランキングに載るだけで何になるわけでもない。とはいえ、プレイ人数も少ないので私が二位のところにつけている。
暇つぶしにちょうどいいからとこのゲームをやり続けていたら、いつの間にかそうなってしまった。あともうすこしで一位の『MugenTofu』さんに追いつくところまできている。
今、私は電車のなかでスマホを手に豆腐を梱包している。速度は今、最大になったところだ。順序よく豆腐を梱包していたその時、突如として電車が急ブレーキをかけた。
はっとした時には、機械を急速に通り過ぎていく生の豆腐の映像が目に入ってしまう。
「あぁっ……、行かないで!」
思わず声に出してしまい、恥ずかしくなって思わず口をつぐむ。スマホの画面では暖色の色調で、大して残念そうでもなさそうな『GAME OVER』の文字が大きく出ていた。
お題『どこまでも続く青い空』
世界は雲に覆われてしまった。本当の空を見るには、飛行機に乗るしかない。僕が生きてるのはそんな時代。
かつて日本は、雲に覆われておらず、晴れると青い空が広がっていたこともあったみたい。だけど、気候変動が起きて、日本のみならず、世界中が雲に包まれてしまった。
本当の青い空を見るには飛行機に乗るしかないんだって。
でも、うちは貧しくて旅行に行くなんて贅沢はできなかった。ないお金から大学まで行かせてくれた親には感謝している。そんななかで、出た友人からの『海外旅行行こうぜ』という言葉。
なんでも、たまたまハワイだけは雲に覆われてないんだって。
僕は、幸い大学にはあまり行かなくて済むくらい単位は取れていたので、どうにかしてバイトをたくさんこなして、友達と旅行に行けるくらいにはためられた。
そうして、初めて空港へ行って、わくわくそわそわしながらパスポートやら手荷物やらの手続きを済ませて、友達のコネでラウンジに入れてもらってビールを飲み、美味しいカレーを食べて飛行機に乗った。
離陸する時の体が浮く感覚がなんとも言えなくて、でもそれを友達に言ったらしばらくいじられそうだから言えない。飛行機が浮いて雲の中を飛んで突き抜けた。
その先の景色に僕は感動した。真っ青な天井ではない。これが本物の空なのだと。
僕は、しばらく口を開けたまま初めての光景を目にしていた。
お題『衣替え』
大体十月くらいには、たんすの中身を入れ替えてきた。
だが、今年は違う。今年はずっと暑くて、ようやく十月くらいになって涼しくはなったが、寒いと思えば次の日は暑かったりして、そうなると衣替えのタイミングがわからなくなったりする。
さすがに十一月になったら衣替えのタイミングかなと思う。
お題『声が枯れるまで』
とても仲が良い友達がいた。その子はある日、『実は自分は異世界から来た人間で、早く帰らないといけなくなった』と言って、そのまま突如として空にあいた穴に吸い込まれていくように消えていった。彼女からもらった宝石だけが残っている。
それは、彼女がいなくなった瞬間、緑色に明るく光っていたのが急に消えた。
それから数年もの間、不安にかられた。時折、忘れようとすることもあったけど、ふとした瞬間に宝石を見ては気分が塞ぎ込んでいくのが分かった。
それが今、緑色にほのかに輝いている。私は、「もしかして」と、その石を手に外へ出た。
時刻は夜〇時を回った頃、向かう場所は私と彼女が最後にお別れを言った場所。
つくと、いつもと違う光が空にうっすら浮かんでいた。その穴はまだ小さい。
私は友達の名前を呼んだ。何度も何度も繰り返し呼んだ。声がもうガラガラになるまで、出しにくくなっても彼女を呼んだ。
そうしたら、私が手に持っていた宝石が急に明るくきらめきだしたかと思うと、空の穴が大きく広がって中から私と同じくらいの女の子が杖を手にして、変わった紋章があしらわれたワンピースを着て現れた。間違いなく彼女だ。
彼女が地面に降り立つと私は勢いよく駆け寄って、彼女に抱きついた。
「おかえり!」
「ただいま。あいかわらず、甘えんぼさんねぇ」
彼女が頭を撫でてくれる手がとても温かかった。
お題『始まりはいつも』
緊張する。
暇だからという理由で、勢いで知らない人達と遊ぶイベントに申し込んでしまうことが何回かある。
自分から楽しそうだと思って申し込んだくせに行く前になると、『いやな人達だったらどうしよう』とか『うまく喋れるかな』とか考えてネガティブになってしまう。
やはり人と話すと緊張するけど、毎回運がいことに楽しい気持ちで帰ることが多い。