白糸馨月

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お題『声が枯れるまで』

 とても仲が良い友達がいた。その子はある日、『実は自分は異世界から来た人間で、早く帰らないといけなくなった』と言って、そのまま突如として空にあいた穴に吸い込まれていくように消えていった。彼女からもらった宝石だけが残っている。
 それは、彼女がいなくなった瞬間、緑色に明るく光っていたのが急に消えた。
 それから数年もの間、不安にかられた。時折、忘れようとすることもあったけど、ふとした瞬間に宝石を見ては気分が塞ぎ込んでいくのが分かった。
 それが今、緑色にほのかに輝いている。私は、「もしかして」と、その石を手に外へ出た。
 時刻は夜〇時を回った頃、向かう場所は私と彼女が最後にお別れを言った場所。
 つくと、いつもと違う光が空にうっすら浮かんでいた。その穴はまだ小さい。
 私は友達の名前を呼んだ。何度も何度も繰り返し呼んだ。声がもうガラガラになるまで、出しにくくなっても彼女を呼んだ。
 そうしたら、私が手に持っていた宝石が急に明るくきらめきだしたかと思うと、空の穴が大きく広がって中から私と同じくらいの女の子が杖を手にして、変わった紋章があしらわれたワンピースを着て現れた。間違いなく彼女だ。
 彼女が地面に降り立つと私は勢いよく駆け寄って、彼女に抱きついた。
「おかえり!」
「ただいま。あいかわらず、甘えんぼさんねぇ」
 彼女が頭を撫でてくれる手がとても温かかった。

10/21/2024, 11:45:35 PM