お題『過ぎた日を思う』
思えば人生は後悔の連続だったように思う。
最初の小学校入学の時から人生詰んでた。
先生から『学校では喋ってはいけません』と言われて、その言葉を真に受けた私は、真面目に学校で一言も話さないでいたら友達が一人もできなかった。嘘みたいだが本当の話である。
それから人に話しかけるのですら声が出なくて苦労して、小学校、中学、高校とマトモな友達ができなかった。
いや、いたにはいたけど、同じようにクラスで居場所がない子とか――まぁそれはいいよ、一緒につるんでる割に別の友達に対して「あいつといるとつまらない」と吹聴する奴とか、私が他の子とつるんでるのが許せない奴とか、マトモな友達にありつけたことなんてない。
大学でどうにか自分から無理矢理話すことを覚えて友達が一人もいないなんて事態にはならなかったけど、私が人付き合い下手すぎて今もなお交流してるのなんて一人しかいない。一人親友がいればいいか、なんてね。
最初の小学校入学の時点で先生の言うことを真に受けなければよかったとか、学校で仲良くしたい子に自分から話しかけに行くとか、嫌なことは嫌と言うとか(今でも家族にすら言えないんだけど)、いろいろあるけど過去は変えられない。
憂鬱になるくらいなら、そこから目を逸らして自分で未来を変えていくしかない。過ぎた日にとらわれると途端に生きるのが辛くなって仕方がないからね。
お題『星座』
夜空を見あげながら、昔、幼馴染と会話していたことがある。その頃、俺たちはたまたま夜空を見あげながら星座の話をするのにハマっていた。
『俺さ、大人になったら星座になりたい!』
『……星座って増えないんじゃないの?』
『俺が神話を作って伝説になったら新しく星座もできんだろ!』
『たとえば?』
『ほら、アルマゲドンみたいに隕石から地球救ったりとか?』
『あはは、楽しみにしてるよ。でも、その時は生きて帰ってこいよ』
『おう、あたりめーだろ!』
なんて会話をしていた。
あれから数十年後、本当に地球に隕石が襲来して、宇宙飛行士になった幼馴染は仲間と一緒にその隕石を破壊しにいった。
結果、隕石は破壊され、地球に降り注ぐことなく、なにも起きずに済んだ。だが、宇宙船は帰ってこなかった。
あの後、彼らの功績をたたえて勲章が授与され、新たに星座が制定されることになるという。
あいつがいなくなって、たしかにあいつの願いは叶ったけど、俺の胸中は複雑だ。だけど、宇宙行く前にあいつから渡された発信機があって、そこにはモールス信号で「今日も無事」と伝えられている。
それを信じて俺は伝説としてまつりあげられそうになっている友達の帰りを待っている。
お題『踊りませんか?』
隠し部屋のモニターで私は様子をうかがっている。
客が続々と館の中へと入ってきた。今日は、この館の持ち主である私主催のパーティーがある、との触れ込みで皆招待状を持って集まっている。
うしろの扉から人が入ってきた。
「御主人様、来客が全員そろったようです」
執事が礼をした。
「わかった、御苦労」
そう言って、私はボタンを押した。今まで見ていたモニターに目をやると、客が入ってきた扉の前に鉄格子が出てきて、この屋敷から出ることを阻む。
突然のことに慌てふためき、視線をキョロキョロさせたり、どよめいている様が可笑しい。
私はマイクのスイッチを入れた。
「本日はお集まりいただき、ありがとうございました! これより脱出ゲームを開始いたします!」
客が困惑している様子を見て、口角があがる。
この日のためにいろいろ準備した。解くのが難しいであろう仕掛け。その仕掛けを次々に解かないとゴールがわからない仕組みになっている。
さぁ、私の手のひらの上で踊ってもらおうか。
お題『巡り会えたら』
今日、依頼主の男性が学生時代にずっと片想いしていた相手と再会させることに成功した。
お互いに会って楽しそうに思い出話に花を咲かせながら居酒屋へと消えていく姿を見ながら、私は首をたてに振る。
私の仕事は『再会仕掛人』だ。依頼主が会いたい人間になるべく自然な形で再会させることが仕事だ。
ただ、こちらも客は選んでいて、先ほどの男性のように『好きな人に想いを伝えたい』とか、『お世話になった人にできなかったお礼がしたい』ならいいのだが、時々『恨みを晴らしたい』だの『推しの家に行きたい』と言ってくる輩がいて、そういうものの依頼は受けないことにしている。
あくまでエモい再会を演出するのがこちらの仕事だ。
お題『奇跡をもう一度』
昨日、推しが同じ電車に乗っていた。
私の推しは2.5次元の舞台を中心に活躍している俳優で、とにかくとんでもなく顔がいい。それが同じ電車の同じ電車車両に乗っていたからパニックになっていた。
彼の足元には黒くて大きなカバンが置かれていて、おそらくそこに稽古着とかいろいろ入ってるんだと思う。舞台俳優は荷物が多いんだなって。
話しかけないのかって? 話しかけるわけがない。
ただでさえ電車は混み合ってるのにそれを押しのけて推しに話しかけに行く勇気はさすがにないよ。それに推しはサングラスして、黒い帽子をかぶってバレないようにしている。
けど、やっぱサングラスごしでも顔がいいなぁと感心する。私が降りる頃には推しはいなくなってたけど、明日も同じ電車に乗っていたら嬉しいなとひそかに思うのだ。