白糸馨月

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9/29/2024, 11:39:04 PM

お題『静寂に包まれた部屋』

 会議室へ行ったら一番乗りだった。発表するのは俺なので当然なのだが。
 俺は自分が作ったパワポの資料を人数分配り、パソコンとプロジェクターをつなげた。
 その時、なんだか無性に歌いたくなって最近流行っている曲を口ずさみ始めた。
 パソコンの画像がプロジェクターに送られているか確認し始めたところで、入ってきた上司と目が合う。
「あっ……」
 正直恥ずかしい。なにごともなかったかのように振る舞うと、急に上司が俺がさっきまで歌っていた曲と同じ歌を歌い始めた。しかも振り付け付きで。
 俺はなんだか楽しくなって、しばらく二人してゴキゲンのまま歌い続けた。楽しく腰をふりながら歌っていたらもう一人、人が入ってきたタイミングで俺たちはピタリと歌うのをやめた。
 彼は職場であまり喋らず、なにもつっこまないタイプなので無言で席につかれたことが余計に恥ずかしさを増した。
 その後、会議が始まるまで気まずさは続いたのだった。

9/29/2024, 2:39:23 AM

お題『別れ際に』

 友達に石を渡された。彼女は私から見ると異世界から来ていて、ここ人間界に留学していた。
 それが上から人間界での役目は終わったと判断されて彼女は異世界に帰ることになったんだ。
 私は彼女とはなれて一ヶ月はずっと泣いていた。最近では一番の友だちだっし、毎日一緒にいた。当たり前のように一緒にいると思っていたから悲しかった。
 それがある時、急に石が青く光り始めた。なにかと思うと、そこから彼女の姿が小さなホログラムみたいに浮かび上がってくる。
「久しぶり。元気にしてた?」
 いつもの彼女の姿があって、私は思わず泣いた。
「……って、泣きすぎだよぉ」
「だって、やっぱり貴方がいないのはさみしくて」
「うん、私も寂しいよ」
 浮かび上がってる彼女も涙をこぼした。二人でしばらく泣いた後
「もうすぐ、そっちの世界と私の世界をつなぐトンネルが作られると思う」
 その言葉に私は思わず目を見開く。
「ねぇ、それ本当?」
「うん。王様が出した新しい企画で。まだ立ち上がったばかりだけど」
「じゃあ、それができたらいつでも会いに行けるってことだよね!?」
「うん、そうなると思う。いつになるかは分からないけど」
「そしたらまた、会おう!?」
「うん」
「絶対、絶対に会おう!」
 私は友だちにうったえたら、彼女は笑った。
「こんなに好かれて、私嬉しいなぁ」
 彼女の姿が消えかかっている。私はまだ彼女とはなしたかったけど、どうもそうは行かないみたいだ。
「もう時間が来ちゃったみたい」
「次はいつ話せる?」
「それが私にも分からない。だからね」
「うん」
「出来るだけ石をそばに置いておいて欲しいの。それでときどき様子見てくれたら嬉しいな」
「時々じゃなくてずっと見てるよ!」
「あっははは。本当に私のこと好きだなぁ」
「うん、好き、大好き!」
 そう言って私は両手でで彼女を包んで昔みたいに抱きついていたのを表してみる。すると、彼女は目をつむり、私の手によりかかるようなポーズをとって
「またね」
 と言って消えた。目の前の石はただの石に変わった。
 私は涙を拭く。
「私からもやらないと」
 でも、何を? どこからやればいいのかわからないからとりあえずスマホから検索エンジンを出して『異世界へ行く方法』と入力した。

9/28/2024, 2:08:30 AM

お題『通り雨』

「エモーショナルクラウドって知ってる?」
「あー、最近話題の?」
「そう。この前クラスの子のところだけ局所的に雨が降られてるのをみちゃってさぁ」
「えっ!? 実在すんの?」
「実在するみたい。そう言えばその子、彼氏にフラれたとかなんかで」
「えぇ……」
 できればそんなモノに出くわしたくないなと思った。だって公開処刑じゃん、その子のところだけ雨が降るなんて。ま、すぐやむらしいけど。

 っていう会話をした矢先、サプライズで年上の彼氏が住んでるアパートへ行ったら、女がいた。二人仲良くベッドの中にいる。
 私はわざと大きな音を立てて部屋に入る。二人共ぎょっとした顔をして私を見ていた。
「なにしてんの?」
 冷たい声音に自分でもひどく驚く。彼氏はあわてた様子でベッドから出てきて
「これには事情があって」
 と説明しはじめた。私はスッと急激に自分の感情がさめていく感覚を覚える。横にいる女は笑いながらこっち見てる。きっと彼を陥落させたのだろう。
「マジでキモい」
 その女も、好きだった男も。私は勝ち誇った顔してる女に向かって合鍵を投げつけた。
「きゃっ!」
「こんなもの、くれてやる!」
 そう言って私は部屋を出ていった。

 なんでこんな男なんか好きだったんだろう。年上の大学生で背が高くてかっこよくて、自慢だった。それが他にも女がいるクズだったなんて。
 私は自分の男を見る目がなさに涙があふれてきた。どこか隠れられる場所はないか、探していると上から額が濡れる感触がした。続いて肩が、やがてだんだん濡れる面積が広くなる。
 自分がいるところだけ雨が降っているのだ。頭上には私の頭の上だけにかかる灰色の雲。
「勘弁してぇ、恥ずかしいぃ」
 泣き止みたくても泣き止めない。無駄なエモい展開とかマジでいらない。私は感情がぐっちゃぐちゃになりながら公開処刑雲の下でボロボロ涙をこぼしていた。

9/27/2024, 9:04:54 AM

お題『秋🍁』

 食欲には勝てないのだとあらためて思う。
 どこかのお寺の敷地内にある料亭がなんだか秋になると紅葉が綺麗で見物なんだと、テレビの情報番組が伝えていた。
 私はきれいなものを見るのが好きだ。紅葉、いいよね、赤とか黄色とか葉っぱが色づいてそれがはらはら落ちていくの、桜とはまた違ったオモムキっていうの? そういうのがあるよねなんて思っていたら、その次に映った映像に私の目はくぎづけになった。
 薄茶色のご飯はつやつやに光っていて、その上に紅葉を模した人参と、三つ葉のくきと葉が飾られていて、それ以上に目を引いたのが薄切りにされた松茸だった。
 その瞬間、思わずよだれがたれる。
 私はきれいなものも好きだが、美味しいものを食べるのはもっと好きだ。
 気がつくと私は、そこの料亭の電話番号を調べしばらく待った後、予約を入れていた。人気店らしく紅葉の時期とは多少ずれたがまぁいい。
 それだけに飽き足らず、私は自分の口が炊き込みご飯の口になっていることに気がついて、米を出し始めた。
 最近、実家に帰った時、母から痩せるように言われたばかりだ。でも、美味しいものは食べたいのだから仕方ないのだ。だから食欲に勝てないのだと思う。

9/26/2024, 3:41:47 AM

お題『窓から見える景色』

 電車の外の景色が都内のビルばかりの街並みからなにもない畑が広がってるだけの風景だったり、ときどき変わった感じのホテル街が見えたりする時、あぁ都会から出られたなぁと思う。
 たまたま今日休みがとれたので、一人で温泉地へ向かう予定だ。たまにこうして温泉行くために遠出することがある。
 最近、仕事が忙しく、終わりが夜遅くなることがあるからそろそろ温泉に行きたいと思っていたところにたまたま気になっていた旅館があいて、『休みます』と言い切って出かけているところだ。
 しかし、窓から変わる景色を眺めていると『旅行が始まる』という感じがして毎回高揚するのである。

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