白糸馨月

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お題『通り雨』

「エモーショナルクラウドって知ってる?」
「あー、最近話題の?」
「そう。この前クラスの子のところだけ局所的に雨が降られてるのをみちゃってさぁ」
「えっ!? 実在すんの?」
「実在するみたい。そう言えばその子、彼氏にフラれたとかなんかで」
「えぇ……」
 できればそんなモノに出くわしたくないなと思った。だって公開処刑じゃん、その子のところだけ雨が降るなんて。ま、すぐやむらしいけど。

 っていう会話をした矢先、サプライズで年上の彼氏が住んでるアパートへ行ったら、女がいた。二人仲良くベッドの中にいる。
 私はわざと大きな音を立てて部屋に入る。二人共ぎょっとした顔をして私を見ていた。
「なにしてんの?」
 冷たい声音に自分でもひどく驚く。彼氏はあわてた様子でベッドから出てきて
「これには事情があって」
 と説明しはじめた。私はスッと急激に自分の感情がさめていく感覚を覚える。横にいる女は笑いながらこっち見てる。きっと彼を陥落させたのだろう。
「マジでキモい」
 その女も、好きだった男も。私は勝ち誇った顔してる女に向かって合鍵を投げつけた。
「きゃっ!」
「こんなもの、くれてやる!」
 そう言って私は部屋を出ていった。

 なんでこんな男なんか好きだったんだろう。年上の大学生で背が高くてかっこよくて、自慢だった。それが他にも女がいるクズだったなんて。
 私は自分の男を見る目がなさに涙があふれてきた。どこか隠れられる場所はないか、探していると上から額が濡れる感触がした。続いて肩が、やがてだんだん濡れる面積が広くなる。
 自分がいるところだけ雨が降っているのだ。頭上には私の頭の上だけにかかる灰色の雲。
「勘弁してぇ、恥ずかしいぃ」
 泣き止みたくても泣き止めない。無駄なエモい展開とかマジでいらない。私は感情がぐっちゃぐちゃになりながら公開処刑雲の下でボロボロ涙をこぼしていた。

9/28/2024, 2:08:30 AM