白糸馨月

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9/24/2024, 11:52:47 PM

お題『形の無いもの』

 まいった。なにもネタが思い浮かばない。
 小説を書いていると、何度かそういう悩みにぶち当たることがある。
 そんなある日、私はなんとなく字書きが運営してるブログを読んでいるとマインドマップツールの紹介がされていた。
 どうやらワードから広げていくごとにネタが思い浮かぶヒントが得られるらしい。
 私はもともとマインドマップを書くのは苦手だったけど、アプリをダウンロードして、お題を中央に置いてそこから言葉を連想していく。
 今はまだ使い慣れていないけれど、言葉から連想していくごとにあやふやだった『書きたいもの』が形になっていくのだろうかと、期待してやっている。

9/23/2024, 11:23:32 PM

お題『ジャングルジム』

 小さい頃、ジャングルジムの頂上まで登れなかった。恐れ知らずな子供ならすいすい行けただろうけど、僕はそうはなれなかった。
 そんな僕は今日、勤めてきたブラック企業を辞めた。
 次のよりホワイトな企業を求めたゆえのステップアップのためだ。人手不足が故に上司や同僚から引き止められたが深夜まで残業して働く気にはなれなかった。
 だから、一念発起して転職活動をして無事いい企業に転職することができた。
 次の仕事が始まるまであと一月ある。
 そこでふと、公園のジャングルジムの存在を思い出したんだ。
(今なら登れるかもしれない)
 会社の退職手続きを終えて出た後、僕は公園のジャングルジムの前に立っている。
 カバンを地面に置き、僕はジャングルジムを登り始めた。ジャングルジムってこんなに小さかったかなと思う。
 だが、今ならなにも怖くない気がする。
 そうしているうちに今まで止まっていた頂上より一つ下の段から頂上に足を掛けられた時、言いしれない興奮の感情が脳内を渦巻いた。
 そのまま一気に頂上へ向かい、足を引っ掛けて腰掛け、ガッツポーズを決める。
 すると、下にいた子どもと目があった。横にいたお母さんが
「あぁ、かわいそうに。貴方は本当に辛くなる前に人に相談できる子になりなさいね」
 と言い聞かせているのが見えて、子供が意味もわからずきょとんとしている。
 だが、僕は会社に行くふりしているスーツ姿の男ではない。
「大丈夫、未来は明るいよー!」
 と叫んだら、お母さんが子供を連れてその場から逃げていった。すこし恥ずかしいことをしたけど、今の僕はなにも怖くない気がした。

9/23/2024, 3:51:57 AM

お題『声が聞こえる』

「おはよう! 朝だよ、起きて、起きて」
 舌っ足らずな子どもの甲高い声が聞こえてきて、私は思わず「うわぁっ!」と声を上げて飛び起きた。
 私にはお気に入りのイモムシみたいな形をしたゆるキャラの手のひらサイズのぬいぐるみがいて、いつも一緒に寝ているが、どういうわけか枕をよじ登ってきて私にずっと突進し続けていたらしい。すこし顔の部分が丸みを帯びていたのがたいらになっていることからそうなのだろう。
 それによく見ると、在宅ワーク用のPCのモニターにつけてたはずの猫のデスクトップマスコットもなぜかいる。
 私はまばたきして
「よし、夢だ。寝るか」
 と横になった。その瞬間頭にやわらかいものが思い切り突進してくる。
「ぬおっ!?」
「夢じゃないってば!」
「えぇ……」
 二匹の声が同時に聞こえて、困惑したまま目に入った時計の時刻は8時45分。
「やば……」
 私は急いで起き上がるとパソコンをつけに向かった。そうしたら、いつの間にそんな運動能力を身に着けたのだろう、デスクトップマスコットはモニターの上に、イモムシくんはデスクの左側のあいたスペースに来た。二匹して私のことをキラキラした目で見ている。正直、かわいい。
「なぁに見てんだい」
 とぬいぐるみたちに聞いたら
「ごしゅじんさまのおさぼり防止!」
 とイモムシくんは答え、
「おぬしがYoutubeで推しの配信のアーカイブを仕事中に流しているのは知ってるニャ」
 とデスクトップマスコットにゃんこが答え、私はすこし恥ずかしい思いをした。

9/22/2024, 3:11:43 AM

お題『秋恋』

 私は思わずXのタイムラインを二度見した。
どうやら好きな商業BL漫画が実写化するらしい。しかし、タイトルが『秋恋』に変えられていて、私はすこしの絶望感を味わった。ただ、原作のタイトルがなろう系と呼ばれるジャンルのように長く、略して『アキコイ』と言われていたのでここは広い心で受け入れる決意をする。
 昨今、実写化といえば脚本家が原作と展開を変えてしまったり、はては登場人物の性別を変えてしまったり、恋愛関係にない相手と主人公とのラブロマンスがあったりするものである。
 私はあまり期待せずに実写化された映画のサイトを見にいった。すでに予告編が作られていて、それがページの最初に出てきたので期待値を底辺まで下げながらクリックする。
 その瞬間、私は思わず目を見開いてしまった。漫画から飛び出してきたイケメン二人の映像が流れてくる。
 しかし、それだけでなく、二人が向かい合うシーンがあり、一般的に見ればここで口づけするかみたいな場面があるが、原作ファンからすれば分かるシーンがある。ここから、二人は突如刀を抜いてはげしく斬り合うのだ。
 これは期待以上だ。やがて予告編がここで終わり、トップページへ行くと私は拝み始めた。
 漫画から飛び出してきたような美男子二人が完全に商業誌の表紙を再現しているのだ。それにキャスト名の下に脚本家の名前があり、別の脚本家の他に原作者が名を連ねている。いや、むしろ原作者がメインと言えるような立ち位置だ。
 Xのアカウントを見れば、原作者が『役者の選定から携わり、ストーリーに至るまで満足の行く出来に仕上がりました。タイトルはこちらが意図したものです。皆様のお目にかかれることができることを楽しみにしています』とツイートしている言葉があった。
 言われてみればキャストは見たことない役者だし、タイトルはファン目線に立ったものだと説明された。
 原作者が原作を愛してくれているという事実に私はしばらくの間、床を転げ回った。

9/21/2024, 4:00:44 AM

お題『大事にしたい』

「やりたくないってどういうこと!? もうこっちは頼んじゃったんだけど!」
 彼女がテーブルを両手で大きくたたく。周囲がこっちを見ているのがとても恥ずかしい。でも、今日こそははっきり言わないとって思ったから言った。
 俺が『月ごとに記念日を祝うのは、やめない? いちいち覚えられないよ』と言ったらさっきの顛末である。
「ごめん、正直もう限界なんだ。誕生日ならまだいい。ただ、毎回『付き合って三ヶ月記念』とか『四ヶ月記念』とか『はじめてデートした記念日』とかやられると、さすがにやりすぎっていうか。それをインスタに載せられるのも正直恥ずかしいし」
「あんたはあたしと付き合った記念日なんて大事じゃないんだ」
 彼女が瞳をうるませたのを見て思わずぎょっとする。でもそこにひるんではいけない。
「大事じゃないとは言ってない。ただ、すこしやりすぎかなって」
「じゃあ、あんたにとってあたしとの記念日なんてどうだっていいんだ」
「どうだっていいだなんて言ってない。やりすぎだって言ってるんだ」
「ほら、どうだっていいって言ってるんじゃん! もういい! 記念日を祝えない人とはもうやってられない! 別れる!」
 感情的になった彼女…いや、元彼女は荷物をまとめて席を立ち、店を出ていった。一人ぽつんと残される俺。
 彼女と別れたことに未練はもうない。どっと疲れが押し寄せてきつつ、俺はボタンを押して店員を呼ぶ。
「すみません、お会計で」
「あの記念日の……」
「いらないです、お会計で」
「はぁ」
 そう言って、店員は席を後にする。内心「俺が全部払うんかーい」と思いながら、今度は顔だけで恋人を選ばないようにしようと誓った。
「やっぱり価値観かぁ。可愛くないと好きになれないけど、がんばるか……」
 そう、ひとりごちて俺はマッチングアプリを再インストールし始めた。

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