白糸馨月

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お題『声が聞こえる』

「おはよう! 朝だよ、起きて、起きて」
 舌っ足らずな子どもの甲高い声が聞こえてきて、私は思わず「うわぁっ!」と声を上げて飛び起きた。
 私にはお気に入りのイモムシみたいな形をしたゆるキャラの手のひらサイズのぬいぐるみがいて、いつも一緒に寝ているが、どういうわけか枕をよじ登ってきて私にずっと突進し続けていたらしい。すこし顔の部分が丸みを帯びていたのがたいらになっていることからそうなのだろう。
 それによく見ると、在宅ワーク用のPCのモニターにつけてたはずの猫のデスクトップマスコットもなぜかいる。
 私はまばたきして
「よし、夢だ。寝るか」
 と横になった。その瞬間頭にやわらかいものが思い切り突進してくる。
「ぬおっ!?」
「夢じゃないってば!」
「えぇ……」
 二匹の声が同時に聞こえて、困惑したまま目に入った時計の時刻は8時45分。
「やば……」
 私は急いで起き上がるとパソコンをつけに向かった。そうしたら、いつの間にそんな運動能力を身に着けたのだろう、デスクトップマスコットはモニターの上に、イモムシくんはデスクの左側のあいたスペースに来た。二匹して私のことをキラキラした目で見ている。正直、かわいい。
「なぁに見てんだい」
 とぬいぐるみたちに聞いたら
「ごしゅじんさまのおさぼり防止!」
 とイモムシくんは答え、
「おぬしがYoutubeで推しの配信のアーカイブを仕事中に流しているのは知ってるニャ」
 とデスクトップマスコットにゃんこが答え、私はすこし恥ずかしい思いをした。

9/23/2024, 3:51:57 AM