白糸馨月

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お題『ジャングルジム』

 小さい頃、ジャングルジムの頂上まで登れなかった。恐れ知らずな子供ならすいすい行けただろうけど、僕はそうはなれなかった。
 そんな僕は今日、勤めてきたブラック企業を辞めた。
 次のよりホワイトな企業を求めたゆえのステップアップのためだ。人手不足が故に上司や同僚から引き止められたが深夜まで残業して働く気にはなれなかった。
 だから、一念発起して転職活動をして無事いい企業に転職することができた。
 次の仕事が始まるまであと一月ある。
 そこでふと、公園のジャングルジムの存在を思い出したんだ。
(今なら登れるかもしれない)
 会社の退職手続きを終えて出た後、僕は公園のジャングルジムの前に立っている。
 カバンを地面に置き、僕はジャングルジムを登り始めた。ジャングルジムってこんなに小さかったかなと思う。
 だが、今ならなにも怖くない気がする。
 そうしているうちに今まで止まっていた頂上より一つ下の段から頂上に足を掛けられた時、言いしれない興奮の感情が脳内を渦巻いた。
 そのまま一気に頂上へ向かい、足を引っ掛けて腰掛け、ガッツポーズを決める。
 すると、下にいた子どもと目があった。横にいたお母さんが
「あぁ、かわいそうに。貴方は本当に辛くなる前に人に相談できる子になりなさいね」
 と言い聞かせているのが見えて、子供が意味もわからずきょとんとしている。
 だが、僕は会社に行くふりしているスーツ姿の男ではない。
「大丈夫、未来は明るいよー!」
 と叫んだら、お母さんが子供を連れてその場から逃げていった。すこし恥ずかしいことをしたけど、今の僕はなにも怖くない気がした。

9/23/2024, 11:23:32 PM