お題『空が泣く』
ドラマを見ながらふと思う。
登場人物に悲しいことが起きたり、登場人物が絶望を感じたり、今しがた死ぬってなった時になんで雨が降るんだろう、と。
たとえば涙を雨で隠したり、泣けなければ代わりに泣いたりでもしてるんだろうか。悲しみを演出でもしてるんだろうか。
いずれにしても天候が登場人物に寄り添ってくれるなんて、まだやさしいよなぁと思う。
現実はそうはいかない。
たとえば、日常生活でいやなことがあっても、悲しいことが起きたとしても、天候はたかが一人の身に起きた境遇に左右されない。
そう思いながら私は今、登場人物が雨に打たれながら死に行く場面をテレビごしに見ている。拳銃に打たれた頭から血が流れて、雨がそれを流していく。
それをなんの感情も湧かない目で視聴者の私は見ている。
「登場人物が泣きたくなるような目に遭って、ひとり晴れわたる空の下をうつむきがちにふらふら歩いても、誰の目にもとまらない話はどうだろう」
とか
「白昼堂々登場人物が殺されたとして、空は晴れているのに誰からも気づかれないまま死を迎えるのは、より絶望的じゃないか」
とか、いろいろ妄想してしまうのだ。
お題『君からのLINE』
となりに住んでる男子がいた。彼とは幼稚園から高校までずっと一緒だった。
小学四年くらいから、私と彼は秘密のやりとりをしていた。ある時、彼の方から二つのコップを糸でつなげたものを投げてよこしてきて、そこから私と彼とのやりとりが始まった。男女二人が教室で話しているだけでまわりの男子や、それに追随する女子がはやしたてるようになったからだ。
私たちは教室ではほとんど関わらなくなった。そのかわりに糸電話でつながっていた。
お互いにいろいろ話した。教室の話、テストの話、親の話、部活の話など。なんでも話した。
だけど、お互い恋愛のことについては話せなかった。「好きな人いる?」と聞いて「いる」と言われるのが怖かったからだ。向こうからも恋愛について聞かれることはなかった。
高校を卒業して、彼が一人暮らしを始めることになって糸電話は途絶えてしまった。正直、とてもさみしかったが仕方ない。糸電話で話すことに夢中でそういえばお互いスマホを持っているのに連絡先を知らなかった。
夏になって、彼が帰ってきたと母から伝えられた。もう糸電話で話すことなんてないなぁ。そう思っていたら、帰ってきた夜に窓の向こうから「おーい!」って声が聞こえてきた。
私は窓を開けると、またコップが投げ込まれてくる。窓の向こうにいる彼はすこし垢抜けている気がした。テレビに出てくるアイドルみたいな見た目ですこしドキドキした。
コップを耳にあてると、いつもの彼の声が聞こえてくる。
「あのさ、LINE教えてくんね?」
顔を上げると、頰を赤らめて照れくさそうにしているの彼の姿が目に入った。
「いいよ!」
と私は言い、口頭でIDを教えた。それからしばらく間があいて、一件の通知が来た。彼からだった。
私は嬉しくなってスタンプを返した後、「ありがとう!」とコップごしに伝えた。しばらく彼を見ていたら、やはり彼は照れくさそうに
「今日はこのへんにしとこ?」
と言って、私の手にあったコップをひったくるかのように自分の手元へ戻した。
閉じられる窓の向こうを見つめて、今度はLINEでやり取りする。
「そっちどう?」
「人多くてときどきしんどいかも」
「そのわりに染まってんじゃん、東京に」
「こうしないと浮くんだよ、大学で」
「えー。入るコミュニティ間違えてない?」
「べつにいいだろ、楽しそうだと思ったんだから」
こういうやりとりがしばらく続いた後、彼から
「また糸電話の時みたいに、こうやってやりとりしていい?」
と聞いてきた。私はそのメッセージを見た時、嬉しすぎて口角が上がって思わず「いいよぉ」と書いてある気持ち悪く描かれたおじさんのイラストのスタンプを送ってしまった。
「なにそのスタンプ、きめぇ」
って言う彼に私はケラケラ笑った。
お題『命が燃え尽きるまで』
「命燃え尽きるまで、がんばろー!」
運動会のクラス対抗応援合戦の前、クラス全員で円陣を組み、クラスの目立つ女子が声を張り上げた。皆もそれについていくように「おー!」と歓声をあげる。
だが、私は『運動会ごときで命を燃やし尽くすな』とつっこまずにはいられなかった。私一人だけそれに参加してないことがバレないように口パクだけで合わせた。
クラスの目立つ男女がてづくりのきらびやかな衣装を着ているうしろで、その他大勢の私達がポンポン持って踊る。正直、やる気はないし、クラスの結果がどうなろうと私にとっては知ったことではない。クラスの目立つ奴から私がなんとなくバカにされていることが分かるからなおさら協力する気なんてない。
「めんどくせぇ」
とこぼす私の横から「だよな」と声が聞こえる。私と同じようにやる気ない奴がいたんだと思う。そいつは、顔がいいだけで目立つグループにいたが、最近なんかあったのか一緒にあいつらとつるまなくなったクラスメイトだった。
「あいつら、自分達が目立ちたいだけなんだよ」
「そう、そうなんだよ!」
私は思わず小声で同意した。この男、こんなに陰気だったかと思うと同時に親近感がわく。
「あいつらのことだから、自分たちだけで気持ちよくなってるだけだわ、マジできしょい」
「へぇ、君ってそんなこと言うんだ」
「言う言う、だってあいつらウザイし」
そうこう言っているうちにパフォーマンス開始を告げるホイッスルが鳴る。私達はさすがにクラスの和を乱す勇気がないので、テキトーにちゃんとやってますよ風を装った。
だから、余計なことを考える暇があるんだろう。
『こいつともっと話がしたいなぁ』
気のせいかちょっと視線を感じる。こいつも同じ考えだと嬉しいなと思ってしまった。
お題『夜明け前』
目が覚めたら、午前四時だった。これで二度寝してしまおうか。そう思ったけど、みょうに頭がすっきりしてどうにも眠れない。
でも、起きるにはまだ早すぎる。外は暗くて、なにかをしようという気にはとてもなれない。
外でランニングするという趣味はないし、スマホゲームは正直最近やる気がでない。本を読むのもなんだかめんどくさい。
とりあえず、横になってめをつむっているか。
そうやって、とくに眠気もこないまま四時間ほどが経過した。もうすこし短いと思っていたのだが、じつは眠っていたらしい。
さすがに起きないと仕事に遅れてしまう。幸い、仕事は在宅だからよかった。
僕はそそくさと起きて、人として終わらなくて良かったと安心して、仕事用のパソコンに向かった。
お題『本気の恋』
本気の恋なんてドラマでしか見たことがない。
まわりでゴールインした人の話を聞くと、正直「好きで好きでずっといっしょに居たいから結婚」じゃなくて、「何年も一緒にいるし、彼氏をつついてその気にさせた」だの「さめてたけど、こいつしかいないんだもん仕方ないじゃん」だの「相手、私のこと好きでいてくれるし、まいっか」だの……まぁ本気で恋して結婚した人なんていないんだなと思う。相手の男が気の毒だなとも思ったりする。というか、よくそういう相手といちゃいちゃできるよなぁと冷めた目で見てしまう。
私は、そういう同性達と同じわだちを踏みたくてなくて、「本当に好きになれそうな人」を探して恋人を探したり、結婚相手を探したりするが何年もかかってることを考えると「私にはそういう人がいなかったんだな」と本気で思うようになる。
ドラマみたいに喧嘩しあいながら最後は心から通じ合えるような恋愛に憧れていた。でも現実は「このひとでいいか」くらいでみんな付き合ったり結婚したりしてるんだ。
私もそういう人を探しては、近寄られる度「あ、ノーセンキューです、やめてください、きしょい」ってなるのを繰り返している。だが、私の場合、嫌いな食べ物を何度か口にしたら食べられるようになったのと同じようにしないと、人並みに恋愛することが難しいんだと思う。
なんだか、恋愛とか結婚って、我慢なんだなと思う。