白糸馨月

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お題『君からのLINE』

 となりに住んでる男子がいた。彼とは幼稚園から高校までずっと一緒だった。
 小学四年くらいから、私と彼は秘密のやりとりをしていた。ある時、彼の方から二つのコップを糸でつなげたものを投げてよこしてきて、そこから私と彼とのやりとりが始まった。男女二人が教室で話しているだけでまわりの男子や、それに追随する女子がはやしたてるようになったからだ。
 私たちは教室ではほとんど関わらなくなった。そのかわりに糸電話でつながっていた。
 お互いにいろいろ話した。教室の話、テストの話、親の話、部活の話など。なんでも話した。
 だけど、お互い恋愛のことについては話せなかった。「好きな人いる?」と聞いて「いる」と言われるのが怖かったからだ。向こうからも恋愛について聞かれることはなかった。
 高校を卒業して、彼が一人暮らしを始めることになって糸電話は途絶えてしまった。正直、とてもさみしかったが仕方ない。糸電話で話すことに夢中でそういえばお互いスマホを持っているのに連絡先を知らなかった。

 夏になって、彼が帰ってきたと母から伝えられた。もう糸電話で話すことなんてないなぁ。そう思っていたら、帰ってきた夜に窓の向こうから「おーい!」って声が聞こえてきた。
 私は窓を開けると、またコップが投げ込まれてくる。窓の向こうにいる彼はすこし垢抜けている気がした。テレビに出てくるアイドルみたいな見た目ですこしドキドキした。
 コップを耳にあてると、いつもの彼の声が聞こえてくる。
「あのさ、LINE教えてくんね?」
 顔を上げると、頰を赤らめて照れくさそうにしているの彼の姿が目に入った。
「いいよ!」
 と私は言い、口頭でIDを教えた。それからしばらく間があいて、一件の通知が来た。彼からだった。
 私は嬉しくなってスタンプを返した後、「ありがとう!」とコップごしに伝えた。しばらく彼を見ていたら、やはり彼は照れくさそうに
「今日はこのへんにしとこ?」
 と言って、私の手にあったコップをひったくるかのように自分の手元へ戻した。
 閉じられる窓の向こうを見つめて、今度はLINEでやり取りする。
「そっちどう?」
「人多くてときどきしんどいかも」
「そのわりに染まってんじゃん、東京に」
「こうしないと浮くんだよ、大学で」
「えー。入るコミュニティ間違えてない?」
「べつにいいだろ、楽しそうだと思ったんだから」
 こういうやりとりがしばらく続いた後、彼から
「また糸電話の時みたいに、こうやってやりとりしていい?」
 と聞いてきた。私はそのメッセージを見た時、嬉しすぎて口角が上がって思わず「いいよぉ」と書いてある気持ち悪く描かれたおじさんのイラストのスタンプを送ってしまった。
「なにそのスタンプ、きめぇ」
 って言う彼に私はケラケラ笑った。

9/16/2024, 2:17:37 AM