白糸馨月

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8/24/2024, 3:06:15 PM

お題『やるせない気持ち』

 サークルの同期の挙式と披露宴に呼ばれた。正直、その子とはすごく仲が良いわけではなかったけど、親しい友達が参加するから久しぶりに会いたくて参加した。
 そうしたら、ものすごい数の新婦側の参列者がいた。私達はそれにおののいた。でも、果たしてこの中に新婦と親しい人間はいるのかと思う。席次表を見ると、私達大学の同級生から高校、中学、小学校、さらには会社の人と……たぶん、知り合い全員呼んだのではないかという具合だ。
 さて、いよいよ新郎新婦の入場が来た。
 ただでさえ、名のしれたホテルの大きなステンドグラスが目立つ式場だけでもすごいのに豪華なオーケストラの演奏までついてる。
 そして、重たい扉から出てきたのは長身痩躯の目鼻立ちが整ったイケメンだった。
 その時、私は暗澹たる気持ちになった。新婦には日頃からイジられてた。不快なのも含めて。だから、親友がいなければ欠席しようと思っていた。
 私のことをコケにしてきた女がイケメンをつかまえ、噂によるととんでもなく年収が高いという。
 本当ならそのイケメンにその女がいかに性格が悪いか、思い知らせてやりたいがせっかくのお祝いのムードに水をさしてはいけない。
 続いて、新婦が父親と入場してくるがウェディングドレス姿を見て「きれい」と言葉をかけてやる気が失せた。
 私は顔を笑顔に固定したまま心のこもらない拍手を続けた。

8/24/2024, 2:16:20 AM

お題『海へ』

「もし私が死んだら、骨は海にまいて欲しいの」
 そう昔付き合っていた、今は亡き彼女に言われた。彼女は体が弱く、病と闘ってたんだけど結局帰らぬ人になってしまった。
 体が弱くても僕はずっと彼女のことが好きで、やっと付き合えて半年経つか経たないかの出来事だった。
 彼女の意向でお骨は僕に託されたので家にあるけど、十年経った今でも僕はまだ彼女との約束を果たせていない。
 それだけ彼女を忘れられないし、なによりまた大切な人を亡くしてしまうのが怖い。
 最近、僕に告白してきた女性がいた。「忘れられない人がいる」「喪うのは怖いんだ」と断ったけど、女性は
「私はその貴方の大切な人を超えられないかもしれないけど、貴方よりも一日でも長く生きると約束したら付き合ってくれますか?」
 と言っている。返事は保留だ。
 僕もそろそろ前を向かなくてはいけないのだと思う。

 今、海が見える丘の上に立って、僕は彼女のお骨を抱えている。
「十年、とどまらせてしまったね」
 これは僕のエゴだ。彼女を忘れたくなくて、はなれたくなくてずっとそばに置いておいたんだ。
 僕は砕いたお骨の粉を手に取り、それを開くと風に舞って彼女の一部が海に向かって飛んでいった。まるで意思を持っているかのようだった。
 また彼女の一部を手にとっては風に手伝ってもらって海に運んで、を繰り返す。
 最後の一握まで終えると、いよいよ彼女があの世に行ってしまったのではないかと思えて僕はその場に膝をついた。本当に彼女がいなくなったと思え、僕は襲い来る喪失感から一人体を震わせて、涙がこぼれるのをおさえられなくなった。

8/22/2024, 11:17:36 PM

お題『裏返し』

「パジャマを裏返して寝ると、運命の人に会えるんだって」
 っておまじないが好きな友達に言われて、その時は「そんなことあるわけないじゃん」と笑っていた。
 だけど夜、お風呂からあがってパジャマを手にしてふと思う。私には好きな人がいる。運動も勉強もできて、目立つグループのなかでそこまで馬鹿騒ぎしない男子のことが。
「これやったら、もしかして、あの子と……」
 そう思った瞬間、私はパジャマを裏返しで着替え始めて、親にバレないようにそそくさと自分の部屋へ戻ってベッドにたどりつく。
(お願いです。私と彼をくっつけてください)
 そうお祈りしながら私は眠りについた。

8/22/2024, 3:40:25 AM

お題『鳥のように』

 鳥のように自由に空を飛びたい、なんて言うけどさ、そのへんにいる鳥を見てあまりそうは思えないよな。
 なんていうか、カラスはゴミあさるし、なんなら女子供めがけてわざと低空飛行してくるし、
 ハトは餌くれる輩がいたらそいつに向かって一目散に飛んできて餌をついばむじゃないか。
 スズメは小さすぎてつぶしてしまうのが怖いし、たまにいる駅に巣を作ってるツバメはヒナは可愛いが柱にフンがついてるのが気になる。
 だから、鳥のようにから連想されるのは『人間はお前らのこと襲わないし、あいつら、自由気ままでいいよな』と思うことだけだ。

8/20/2024, 11:49:26 PM

お題『さよならを言う前に』

 マッチングアプリで知り合った女の子との食事は楽しかった。僕なんかのいいねを受けてくれて、僕にはもったいないほどかわいくて細くてオシャレで、僕とは比較にならないほど話するのが上手くて。
 その一方で僕は緊張してロクに喋れなかった気がする。かわいすぎて直視できなかったし、お酒弱いし少食だから一緒にいても楽しくないんだろうなと思う。今回の場は、彼女がもたせてくれたようなものだ。
 それでも一緒にいて楽しかったから、だから勇気を振り絞って言おう。
 改札の前に着いた時、僕は言った。
「あ、あのっ……!」
「はい」
 彼女はニコニコ笑って僕の呼びかけに応えてくれる。
「来週の土曜日、あいてますか?」
「はい! もちろん」
「今度、どこか行きませんか?」
 このやりとりがもうドキドキする。すると彼女は花が咲くような笑みを僕に見せてくれた。
「ぜひ! 行きましょ!」
 僕なんかの誘いに乗ってくれるなんて本当に女神かなと思う。
「じゃ、じゃあ……場所はまたLINEできめましょう」
「分かりました! 楽しみにしてます! ではまた!」
 そう言って彼女は改札に入って、僕に手を振る。
 僕は手を振返しながら心のなかでガッツポーズを決めた。

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