お題『空模様』
私はよく空の写真を撮ってはインスタにあげている。
べつに写真にこだわってるとかそんなではない。ただ「なんとなく」だ。
べつに空が好きなわけではない。そもそも友達とかわいい場所に遊びに行ったりした日は、その場所と友達との写真をあげて空の写真はあげないが、ネタがない時に空の写真は便利だったりする。なんとなくそこに謎のポエムをつけたりすると、たまに知らない人からいいねがもらえたりするからやめられない。
ある時、友達に「なんで空の写真ばかり載せてるの?」と聞かれた。なんとなく『いいねがもらえるから』って言うのは恥ずかしい。それにネタがなくても空の写真を載せておけばどうにかなる。そんなところだけど、うまく説明するための理由をすこし考えた。
「だってそっちの方がエモいから」
「ポエムは?」
「あった方がエモいかなって」
「ふぅん……今日の夕焼け、とてもきれいで、いとエモし」
「声に出して読まないでよ!」
「まだあるよ。今日の空はくもりだが、雨に濡れたはっぱにおもむきを感じる……清少納言かよ!」
「リスペクトしてます!」
「ウケるー」
友達にイジられつつ、私はこれからもしばらくはやめないんだろうなと思った。
お題『鏡』
鏡を見て、自分の顔を確認する。
腫れぼったかった一重は、まぶたを切開して二重にして、ついでに目頭も切開して目の形をよくした。
うすかった唇も分厚くなりすぎない程度に厚くした。
ホームベースみたいでコンプレックスだった顎は切って卵型といえる顔の形になった。
鼻も高くした。
その結果、今まで私のことをブス呼ばわりしてきたやつらが急に手のひらを返すように「かわいい」だの「美人」だの言ってくるようになった。
ついでにかっこよくて金持ちの彼氏も出来た。
でも何かが足りない。何が足りないんだろう。
また鏡で作られた顔を見ながらふと、思う。見つめているうちにふと、鼻が気になってしまう。
「あ、鼻が低くなってきてる。メンテしないと」
私は鏡からはなれるとさっそく行きつけの美容外科のネットサイトにスマホでアクセスして、予約状況を見始めた。
お題『いつまでも捨てられないもの』
そういえばまだ捨ててないものがある。
それは、学生時代に付き合った最初の彼氏と揃えたペアリングだ。正直デザインは私の好みではなかった。本当は別のが良かったのに元彼は『これがいい!』と言ってそのまま押し切られる形で二人でお金を出して買った覚えがある。
あの頃は、最初の彼氏ということで『ついに私もペアリングかぁ』と有頂天になって指輪をしていたものだが、いろいろあって彼とは別れた。別れ方があまりに不誠実極まりなかったので、別れた時、おどろくほどなんの感情もわかなかったことを覚えている。
別れてもう十年くらいが経つが、指輪なので未だに捨てられてない。べつにいつでも捨てて良いのだが、どうしたものかと部屋を片付ける度に見つけて思い出すのだ。
そして片付けが終わって、しばらく忘れるを繰り返している。
お題『誇らしさ』
たいしたことがないものばかり自慢する幼馴染がいる。
「今日、きれーな形の小石を見つけたの!」
「今日、ママが作ってくれたカレーがすごくおいしかったの!」
「今日、ホルンがちゃんと吹けたの!」
「●●高校に入れたんだ、頑張ったからうれしい!」
「▲▲大学、推薦で行けた!」
幼稚園の時から大したことがないものを、まるでさも特別ですって感じで言ってくる女だった。そんな時の彼女は決まって誇らしさで顔を興奮気味に赤くしていた。
私からすると、正直小石なんてみんな一緒だし、カレーなんてだからなにって感じだし、ホルンは誰よりも下手だし、●●高校は正直底辺よりすこしマシなレベルの学校だ。▲▲大学もたしか大したことがなかった気がする。
そういった話をしては流し続けて、大学になってお互いに一人暮らしを始めるから疎遠になって、社会人になってたまたま同じタイミングで帰省したら幼馴染に会った。
彼女は、となりに立っている男を私に紹介してきた。
「私、今度この人と結婚するの! すっごく優しくて最高なんだぁ!」
へ、どこがって思う。その男はよりにもよってデブでハゲだった。内心、「罰ゲームかよ」と思いながらそれを表に出さないように
「へぇ、おめでとう」
と言った。幼馴染は、嬉しそうに「ありがとう!」と返してそのハゲデブの手を引きながら家の中に入っていった。
その後姿を見送りながら私は思う。
別にあんなレベルが低い女にお似合いの婚約者がいて、見た目もあの自信なさそうに笑う表情も私からしたら「ないわー」って感じだし、それでもあの女は私にマウントとったつもりなんだ、腹が立つ。
いいや、先を越されたんだ。
そう考えると、私は実家に戻って自室のベッドの上に突っ伏した。
皆から馬鹿にされないように、見た目を磨いてそれなりの地位を学校で築いて、勉強や運動も頑張ってそれなりのレベルの高校、大学に入って、歴代の彼氏は全員が容姿端麗だ。
だけど満たされないのは、私にはこの性格だから友達が一人もいなくて、恋愛も半年と続いたことがない。皆、私の本性がバレて引いたか、浮気を繰り返すクズ男ばかりだからだ。
それでもそういう他人の目を気にした生き方をやめられそうにない。一方で、見下してた幼馴染はあんなにも幸せそうだ。
私は歯を食いしばって悔しさに耐えた。
お題『夜の海』
夜しか営業していない水族館があったらいいと思う。そこは、海のなかに曲がりくねった管を入れたような形をしていて、実際に泳いでいる野生の魚を見ることができる。
明かりは、水族館の雰囲気を壊さないよう必要最小限に設置されている。音声ガイドを借りれば今いる階層の魚についての知識やうんちくなどを聞くことができる。
さらに下に降りていくと、今までいた群れなす小さな魚からサメ、エイまでいろいろ見ることができる。運が良ければ海の中だから魚が魚を捕食する場面に出くわすこともある。
そして、最下層が深海魚だ。ここでは、深海に住む魚がいて、水族館の外側に配置されたライトによって彼等の姿をおがむことが出来る。
この水族館はエスカレーターで移動するため、歩いてもそこまで疲れないのも良い。
そんな水族館があったら、仕事が終わった帰りにふらっと立ち寄ってみたいものだ。