お題『目が覚めると』
目が覚めると、スマホが鳴りっぱなしだった。
通知はXからで私は心臓が痛いほど高鳴るのを身を以て感じる。おまけに変な汗がでる。
「え、私なにか変なこと呟いた?」
昨日なにを呟いたか思い出す。えぇと、日頃から推しが尊すぎて昨日も推しについての妄想を呟いたっけ。あぁ、そういえば推しとその相棒の落書き漫画をあげたけど、もしかして
「公式に把握されたとか?」
大変だ。もしそうならすぐアカウントごと消さないと。なぜなら、私は推しについては純粋に「好き」というだけじゃなくて、いわゆる腐女子だからBL的な妄想もしてしまっているわけで。
非実在人物だから公開アカウントだけど、それにしても公式バレは怖い。昨日の呟きは、「推しくん、やっぱえっちだぁ」から始まるしょうもない呟きだ。こんなのが公式に把握されたからきっと通知がやまないんだ。
えぇいままよと、おそるおそるXを開くとそこには嬉しいコメントばかりが並べられていた。
「ひぃ、AくんとBくんの関係性が尊すぎる」
「はぁ~好き」
「作者のAくんに対する愛を感じる」
要するに昨日あげた漫画がバズっていたのだ。おまけにその感想ツイートの中に私が以前から崇め奉っている商業BL描かれてる方も泣いてる絵文字と共に「尊い」と言いながら、私にフォロバしていたのだ。
その信じられない光景に私は自然と口角が上がり、ぐへへ、ぐへへという笑いがこみあげてきた。
お題『私の当たり前』
当たり前というのは、所属するコミュニティによって違うと思う。
親との仲とか、学歴とか、働き方とか、お金の使い方や友達といる時の振る舞い方とか
生きているとそれらがある日突然当たり前だと思えなくなる日がくることがあるし、そもそも当たり前だと思っていない人に出くわすことがあった。
これからも自分が生きやすいように『当たり前』をアップデートしながら生きていこうと思う。
お題『街の明かり』
会社から出ると、人々の喧騒と夜でも明るい街に毎回のように驚かされる。
明るすぎる飲み屋街で、だいたいお店の前に客引きがいてたまに人と帰ったりしていると声をかけられたりする。
会社がその中に位置しているからどうしてもこれは逃れようがない。騒がしいのも楽しくていいが、いつもこれだとさすがにしんどいと思う。
かといって、僕の地元のように夜になると明かりが消えてお店がすぐに閉まってしまうような寂れた街も勘弁だ。
飲み屋のキャッチをかわしながら帰路について、やっと自分の最寄り駅に着く。閑静な住宅街で、駅前はスーパーがあって、しばらく歩けば等間隔に並べられたランプが街をほんのり明るく照らす。
家に着いて街の喧騒から離れられたことに安堵しながら、我ながらいい場所に住めたなと思う。
お題『七夕』
地元の商店街に大きな笹が用意された。そこには色とりどりの短冊がすでに吊るされている。
子供から大人までこぞって短冊に願い事を書いている。
正直、そのつもりはなかった。
だが、お姉さんと目が合う。お姉さんは人懐こそうな笑顔を浮かべながら私に短冊を渡してきた。
ペンは笹の前に用意された机の上のペンケースに置かれている。
流されるまま参加した私は、切実な願いを短冊にこめた。
『最近忙しすぎて休日出勤が増えてます。たのむから休みをください!!!!』
お題『友だちの思い出』
いつも突拍子もない思いつきをする友達がいる。たとえば、小学生のくせにドローン使って教室を撮影してその時のいじめっこの悪事を明るみにしたり、
小中とバレンタインデーに屋台を作ってチョコを売り始めたり、高校の時学園祭でお化け屋敷で作為的に好き同士組ませて『吊り橋効果』でカップル成立し始めたり。
こんなすごいことばかりする友達と距離を置いたり置かなかったりしながらやってきている。
大学は別になって今は、社会人になってブラック企業でくすぶる日々だがある時そいつから連絡が来たんだ。
そういえば、あいつは就職活動せずに地元でブラブラしてたなと思い出す。
「会社たちあげようと思うけど、お前も来る?」
そんな連絡。
「なにしたいか決めてないの?」
と返信したら、「うん」とすぐ返事が返ってくる。それから続いて返事がくる。
「ていうか今『東京駅』にいる」
「住む場所は?」
「今日は野宿しようと」
思わずためいきをついてしまった。もしかしたら、こんな仕事以外なにもできない日々にピリオドを打てるのではないか、そんな気持ちはゼロではない。
その話を聞きたいと思いつつ、やはり強烈な思い出を刻みつけてきた友達が、よく知ってるやつがホームレスみたいにごろごろしてるのは耐えられなかった。
「今からそっち迎えに行く、場所は?」
「駅前のこの辺かな」
そう言って写真が送られてくる。友達が駅前のスペースでホームレスと楽しそうに缶ビールで乾杯してる写真だった。
また思い出が一つ刻まれたところで、友達を迎えに行くべく俺は部屋を出た。