白糸馨月

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6/27/2024, 3:57:13 AM

お題『君と最後に会った日』

 LINEの通知が来て、げんなりした。実家がとなりの幼馴染からだ。こいつがまた「新曲できた」とか言って、動画を送りつけてくるもんだから『ブロック』という言葉が頭をよぎる。
 本人曰く、「まだインスタにもYoutubeにもあげてない。最初のリスナーは君さ」だと。言葉を口にしなければこいつは、面だけはいい。面がいいのにXのフォロワーが十人程度しかいないのは、これから再生する曲のせいだろう。この十人はこいつの顔にひかれただけだ。リプに自撮りについての感想はあれど、曲についての感想を見たことないのがその証拠だ。
 私はマイナスに振り切った期待をこめて再生ボタンを押す。

「きみとさいごにであったひぃぃぃぃぃ〜〜〜〜!」

 あーもう、キモ。アコギ片手にせっかくの顔面をくっしゃくしゃにしてデカい声で出す裏声がほんっとーにキツイ。しかも最後「ひぃぃぃぃ」ってはねあげるのが特にキッツい。もう第一声から声の音程とギターの音程が合ってないの、こいつは聴いてて分からないのかな。
 私は聴くに堪えない曲をすぐさま停止すると

「一回録音したら自分の音楽聴け。それからボイトレ行って来い。プロでやっていきたいならそれぐらいやりなよ」

 と返信した。返事はすぐ返ってくる。

「自分の音楽は俺が一番よく分かってるし、俺はボイトレ行く必要ない」

 開いた口が塞がらなかった。思わず

「きも」

 と返信したらまた即レスが返ってくる。自分のキメ顔の自撮りと共に

「これで許して」

 とハートの絵文字と共に返ってくる。まったく本当にあきれたやつだ。私は、ドン引きの意を示すスタンプを送った。
 その後、幼馴染から電話がかかってきて聞いてもないのに曲についての解説された挙げ句、「君には特別だよ」と言いながらきっつい新曲のフルサイズを近所迷惑考えない音量で聞かされた。
 今度、実家帰ったら隣の家のおばさんに言いつけてやろうと本気で誓った。

6/26/2024, 3:38:07 AM

お題『繊細な花』

 部屋にきれいな花を飾っている。白いバラとこれまた白いレースフラワーだ。だが、この状態を保つために花屋に言われたのは、「部屋の温度を一定に保つこと」だった。
 この花束は特殊な加工をしているようで、なんと一月くらいは枯れずに咲き続けるらしい。
 だが、私は一人で暮らしていない。
 仕事で出ている間に同居している母に空調を消されてしまった。だから、帰ってきて花がしおれかけてることに慌てて、水を替えて再び空調をつけた。
「電気代の無駄じゃない」
 母がためいきをつきながらやってくる。私は頭の血管が切れそうになるのを感じながら
「そうしないと、花が枯れるでしょ!」
「そんなの当たり前じゃない。枯れたらまた新しいの買えばいいでしょ」
 そう言って母は部屋を出る。花がすこし元気になり始めたことにほっとしながら、私は繊細さのかけらもない母にためいきをついた。

6/24/2024, 11:28:53 PM

お題『1年後』

「自分がどうなりたいか考えてみてよ。まずは一年後でもいいからさ」
 と上司との面談で言われて、私は内心首をかしげた。
 正直、自分がどうなりたいかなんて、ない。昇進していく同期を横目で見ながら私は実は平社員でそこそこ定時後の時間が取れる今の立ち位置に満足している。
 だが、会社としてはそうはいかないらしい。だから、キャリアプランを考えろということなんだろう。
 私は上に立つと忙しくなって、残業しながら後輩の作業を見て、得る対価は大したことがないことを同期の話から知っている。だが、昇進が嫌だから転職するかというと正直面倒だからやりたくない
「考えなきゃだめかぁ」
 家に着いた私は冷蔵庫からビールを取り出して、今の悩みをいったんお酒で流すことにした。

6/24/2024, 2:15:53 AM

お題『子供の頃は』

 子供の頃と、今現在とで実はそこまで変わらないのではないかと思う。
 たしかに私が子供の頃はTwitterもPixivもなかったから、昔ながらの小説投稿サイトに登場人物とセリフだけの台本形式を『小説』と言い張りながら投稿したり、個人サイトを作ってそこで小説を発表したりした。
 正直今は『絵が上手くなる方法』とか『小説を書くためのマインド』などの情報があふれていて、今の子供達が羨ましいと思うこともある。
 だが、インターネットの海で私は自分の年齢を公表してないから、今の子供達、ひいては若い世代と同じような顔をしてさまざまな情報を受け取っているのだ。
 だから、そこまで変わらないのではないかと思う。

6/23/2024, 2:46:59 AM

お題『日常』

 平和になったはずの世界にまた魔物が現れるようになった。日々、押し寄せてくるやつらに対抗し、一般人にも対策を教えながら俺はあいつについて思いを馳せる。

 俺達は、勇者一行と呼ばれて旅をして、魔王を倒して世界を救った。これで魔物におびやかされることがない、平和な日常が戻ってくるのだと喜ぶ横で
勇者が喜ぶでもなく、目から光が失われ、心底つまらなさそうな顔をしていたのを思い出す。

 王都で盛大な祝福を受けて、故郷の村へ帰った日のこと。
 勇者は俺の家を訪ねてきて「また旅に出ようと思う」と、村を出た。
 「俺もついていく」と言ったら、「いいや僕一人で行く」と言い出した。
 今思えば、あの時勇者を――幼馴染で親友を止めるべきだったと思う。
 あいつは、俺たちがあんなに望んでいた平和な日常について「退屈だな」と祭の最中にこぼしていた。
 それに戦う時、あいつはいつも笑っていた。迫る魔物が多ければ多いほど、戦いの過程でたくさん傷ついたとしても楽しそうに笑っていた。
 それをする必要は、今はもうない。
 勇者が村を出た直後、再び魔物が増え始めた。きっと無関係ではないだろう。

 ある夜、俺は一人旅支度をする。ある言葉を喋れる魔物が言っていた。
「俺達は、かつて勇者だった者にけしかけられてつまらない世界を滅ぼすように命令された」
と。
 だから、向かうのは魔王城だ。そこなら、親友がいるかもしれない。真相を確かめるべく、俺は旅にでることにした。

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