白糸馨月

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お題『日常』

 平和になったはずの世界にまた魔物が現れるようになった。日々、押し寄せてくるやつらに対抗し、一般人にも対策を教えながら俺はあいつについて思いを馳せる。

 俺達は、勇者一行と呼ばれて旅をして、魔王を倒して世界を救った。これで魔物におびやかされることがない、平和な日常が戻ってくるのだと喜ぶ横で
勇者が喜ぶでもなく、目から光が失われ、心底つまらなさそうな顔をしていたのを思い出す。

 王都で盛大な祝福を受けて、故郷の村へ帰った日のこと。
 勇者は俺の家を訪ねてきて「また旅に出ようと思う」と、村を出た。
 「俺もついていく」と言ったら、「いいや僕一人で行く」と言い出した。
 今思えば、あの時勇者を――幼馴染で親友を止めるべきだったと思う。
 あいつは、俺たちがあんなに望んでいた平和な日常について「退屈だな」と祭の最中にこぼしていた。
 それに戦う時、あいつはいつも笑っていた。迫る魔物が多ければ多いほど、戦いの過程でたくさん傷ついたとしても楽しそうに笑っていた。
 それをする必要は、今はもうない。
 勇者が村を出た直後、再び魔物が増え始めた。きっと無関係ではないだろう。

 ある夜、俺は一人旅支度をする。ある言葉を喋れる魔物が言っていた。
「俺達は、かつて勇者だった者にけしかけられてつまらない世界を滅ぼすように命令された」
と。
 だから、向かうのは魔王城だ。そこなら、親友がいるかもしれない。真相を確かめるべく、俺は旅にでることにした。

6/23/2024, 2:46:59 AM