白糸馨月

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お題『君と最後に会った日』

 LINEの通知が来て、げんなりした。実家がとなりの幼馴染からだ。こいつがまた「新曲できた」とか言って、動画を送りつけてくるもんだから『ブロック』という言葉が頭をよぎる。
 本人曰く、「まだインスタにもYoutubeにもあげてない。最初のリスナーは君さ」だと。言葉を口にしなければこいつは、面だけはいい。面がいいのにXのフォロワーが十人程度しかいないのは、これから再生する曲のせいだろう。この十人はこいつの顔にひかれただけだ。リプに自撮りについての感想はあれど、曲についての感想を見たことないのがその証拠だ。
 私はマイナスに振り切った期待をこめて再生ボタンを押す。

「きみとさいごにであったひぃぃぃぃぃ〜〜〜〜!」

 あーもう、キモ。アコギ片手にせっかくの顔面をくっしゃくしゃにしてデカい声で出す裏声がほんっとーにキツイ。しかも最後「ひぃぃぃぃ」ってはねあげるのが特にキッツい。もう第一声から声の音程とギターの音程が合ってないの、こいつは聴いてて分からないのかな。
 私は聴くに堪えない曲をすぐさま停止すると

「一回録音したら自分の音楽聴け。それからボイトレ行って来い。プロでやっていきたいならそれぐらいやりなよ」

 と返信した。返事はすぐ返ってくる。

「自分の音楽は俺が一番よく分かってるし、俺はボイトレ行く必要ない」

 開いた口が塞がらなかった。思わず

「きも」

 と返信したらまた即レスが返ってくる。自分のキメ顔の自撮りと共に

「これで許して」

 とハートの絵文字と共に返ってくる。まったく本当にあきれたやつだ。私は、ドン引きの意を示すスタンプを送った。
 その後、幼馴染から電話がかかってきて聞いてもないのに曲についての解説された挙げ句、「君には特別だよ」と言いながらきっつい新曲のフルサイズを近所迷惑考えない音量で聞かされた。
 今度、実家帰ったら隣の家のおばさんに言いつけてやろうと本気で誓った。

6/27/2024, 3:57:13 AM