白糸馨月

Open App
6/26/2024, 3:38:07 AM

お題『繊細な花』

 部屋にきれいな花を飾っている。白いバラとこれまた白いレースフラワーだ。だが、この状態を保つために花屋に言われたのは、「部屋の温度を一定に保つこと」だった。
 この花束は特殊な加工をしているようで、なんと一月くらいは枯れずに咲き続けるらしい。
 だが、私は一人で暮らしていない。
 仕事で出ている間に同居している母に空調を消されてしまった。だから、帰ってきて花がしおれかけてることに慌てて、水を替えて再び空調をつけた。
「電気代の無駄じゃない」
 母がためいきをつきながらやってくる。私は頭の血管が切れそうになるのを感じながら
「そうしないと、花が枯れるでしょ!」
「そんなの当たり前じゃない。枯れたらまた新しいの買えばいいでしょ」
 そう言って母は部屋を出る。花がすこし元気になり始めたことにほっとしながら、私は繊細さのかけらもない母にためいきをついた。

6/24/2024, 11:28:53 PM

お題『1年後』

「自分がどうなりたいか考えてみてよ。まずは一年後でもいいからさ」
 と上司との面談で言われて、私は内心首をかしげた。
 正直、自分がどうなりたいかなんて、ない。昇進していく同期を横目で見ながら私は実は平社員でそこそこ定時後の時間が取れる今の立ち位置に満足している。
 だが、会社としてはそうはいかないらしい。だから、キャリアプランを考えろということなんだろう。
 私は上に立つと忙しくなって、残業しながら後輩の作業を見て、得る対価は大したことがないことを同期の話から知っている。だが、昇進が嫌だから転職するかというと正直面倒だからやりたくない
「考えなきゃだめかぁ」
 家に着いた私は冷蔵庫からビールを取り出して、今の悩みをいったんお酒で流すことにした。

6/24/2024, 2:15:53 AM

お題『子供の頃は』

 子供の頃と、今現在とで実はそこまで変わらないのではないかと思う。
 たしかに私が子供の頃はTwitterもPixivもなかったから、昔ながらの小説投稿サイトに登場人物とセリフだけの台本形式を『小説』と言い張りながら投稿したり、個人サイトを作ってそこで小説を発表したりした。
 正直今は『絵が上手くなる方法』とか『小説を書くためのマインド』などの情報があふれていて、今の子供達が羨ましいと思うこともある。
 だが、インターネットの海で私は自分の年齢を公表してないから、今の子供達、ひいては若い世代と同じような顔をしてさまざまな情報を受け取っているのだ。
 だから、そこまで変わらないのではないかと思う。

6/23/2024, 2:46:59 AM

お題『日常』

 平和になったはずの世界にまた魔物が現れるようになった。日々、押し寄せてくるやつらに対抗し、一般人にも対策を教えながら俺はあいつについて思いを馳せる。

 俺達は、勇者一行と呼ばれて旅をして、魔王を倒して世界を救った。これで魔物におびやかされることがない、平和な日常が戻ってくるのだと喜ぶ横で
勇者が喜ぶでもなく、目から光が失われ、心底つまらなさそうな顔をしていたのを思い出す。

 王都で盛大な祝福を受けて、故郷の村へ帰った日のこと。
 勇者は俺の家を訪ねてきて「また旅に出ようと思う」と、村を出た。
 「俺もついていく」と言ったら、「いいや僕一人で行く」と言い出した。
 今思えば、あの時勇者を――幼馴染で親友を止めるべきだったと思う。
 あいつは、俺たちがあんなに望んでいた平和な日常について「退屈だな」と祭の最中にこぼしていた。
 それに戦う時、あいつはいつも笑っていた。迫る魔物が多ければ多いほど、戦いの過程でたくさん傷ついたとしても楽しそうに笑っていた。
 それをする必要は、今はもうない。
 勇者が村を出た直後、再び魔物が増え始めた。きっと無関係ではないだろう。

 ある夜、俺は一人旅支度をする。ある言葉を喋れる魔物が言っていた。
「俺達は、かつて勇者だった者にけしかけられてつまらない世界を滅ぼすように命令された」
と。
 だから、向かうのは魔王城だ。そこなら、親友がいるかもしれない。真相を確かめるべく、俺は旅にでることにした。

6/22/2024, 2:06:12 AM

お題『好きな色』

 好きな色は、と聞かれて青っぽい灰色と答えたら

「えっ、女の子は普通赤とかピンクが好きなんじゃないの?」

 と同期に言われた。正確には、『藍鼠色』なんだけど言っても分からないだろうからそう答える。聞いてきた本人は、いつも青とか黒を身に着けてる。

「女がみんな、それが好きなわけじゃないよ」
「そうなんだ」
「ところでなんでその質問した?」
「いや……『化粧品のサイトのデザイン考える』ってぇのがあって、化粧って女がするもんだろ。だから、赤とかピンクがいいのかなーと思ってそれで案出したら、女性から顰蹙買って」
「ふぅん」

 私達は若手だから、上司が経験を積ませるために任せたのだろう。いろいろな意味で不幸だなと思う。私はコーヒーを口にしながら

(男は青で、女が赤とか、トイレかよ)

 と時代錯誤すぎる同期につっこみたくなるのをこらえた。

Next