お題『子供の頃は』
子供の頃と、今現在とで実はそこまで変わらないのではないかと思う。
たしかに私が子供の頃はTwitterもPixivもなかったから、昔ながらの小説投稿サイトに登場人物とセリフだけの台本形式を『小説』と言い張りながら投稿したり、個人サイトを作ってそこで小説を発表したりした。
正直今は『絵が上手くなる方法』とか『小説を書くためのマインド』などの情報があふれていて、今の子供達が羨ましいと思うこともある。
だが、インターネットの海で私は自分の年齢を公表してないから、今の子供達、ひいては若い世代と同じような顔をしてさまざまな情報を受け取っているのだ。
だから、そこまで変わらないのではないかと思う。
お題『日常』
平和になったはずの世界にまた魔物が現れるようになった。日々、押し寄せてくるやつらに対抗し、一般人にも対策を教えながら俺はあいつについて思いを馳せる。
俺達は、勇者一行と呼ばれて旅をして、魔王を倒して世界を救った。これで魔物におびやかされることがない、平和な日常が戻ってくるのだと喜ぶ横で
勇者が喜ぶでもなく、目から光が失われ、心底つまらなさそうな顔をしていたのを思い出す。
王都で盛大な祝福を受けて、故郷の村へ帰った日のこと。
勇者は俺の家を訪ねてきて「また旅に出ようと思う」と、村を出た。
「俺もついていく」と言ったら、「いいや僕一人で行く」と言い出した。
今思えば、あの時勇者を――幼馴染で親友を止めるべきだったと思う。
あいつは、俺たちがあんなに望んでいた平和な日常について「退屈だな」と祭の最中にこぼしていた。
それに戦う時、あいつはいつも笑っていた。迫る魔物が多ければ多いほど、戦いの過程でたくさん傷ついたとしても楽しそうに笑っていた。
それをする必要は、今はもうない。
勇者が村を出た直後、再び魔物が増え始めた。きっと無関係ではないだろう。
ある夜、俺は一人旅支度をする。ある言葉を喋れる魔物が言っていた。
「俺達は、かつて勇者だった者にけしかけられてつまらない世界を滅ぼすように命令された」
と。
だから、向かうのは魔王城だ。そこなら、親友がいるかもしれない。真相を確かめるべく、俺は旅にでることにした。
お題『好きな色』
好きな色は、と聞かれて青っぽい灰色と答えたら
「えっ、女の子は普通赤とかピンクが好きなんじゃないの?」
と同期に言われた。正確には、『藍鼠色』なんだけど言っても分からないだろうからそう答える。聞いてきた本人は、いつも青とか黒を身に着けてる。
「女がみんな、それが好きなわけじゃないよ」
「そうなんだ」
「ところでなんでその質問した?」
「いや……『化粧品のサイトのデザイン考える』ってぇのがあって、化粧って女がするもんだろ。だから、赤とかピンクがいいのかなーと思ってそれで案出したら、女性から顰蹙買って」
「ふぅん」
私達は若手だから、上司が経験を積ませるために任せたのだろう。いろいろな意味で不幸だなと思う。私はコーヒーを口にしながら
(男は青で、女が赤とか、トイレかよ)
と時代錯誤すぎる同期につっこみたくなるのをこらえた。
お題『あなたがいたから』
俺の主である第三王子がこのたび即位することになった。戴冠式で国民たちが浮き立ち、お祝いムードの中、俺は周囲から目を離すことはなかった。
いつ命を狙われてもおかしくない。第一王子は、幼い頃病で亡くなり、第二王子は護衛のすきを狙った凄腕の弓使いに毒矢でやられた。
だから油断できないのだ。
城内の一室に戻り、俺達護衛は退場しようとする。が、俺だけ王に呼び止められた。
俺はひざまずき、頭を垂れた。王の靴が見える。普通王は大したことがない用で自ら歩み寄ったりしない。だが、王は俺の頰に手をそえると
「顔をあげろよ。ここには俺とお前の二人しかいない」
と、くだけた口調で言った。「おもてをあげよ」ではなく――俺は言われるがままに顔を上げる。前に「そんなもったいなきお言葉」と言ったら、目の前の王からお叱りが飛んできたことがあった。また、ついでに二人だけの時は敬語も禁止されている。幼い頃の王が王宮から抜け出して市井に遊びに来た頃に会った時からの友人だからだ。
平民の出であるはずの俺が護衛隊長にされてるのも、目の前のこいつのはからいだ。
「先代の王のように馬車の中にいればよかったんだ。それなのにお前と来たら、馬に乗ってパレード……まったく、護衛のこっちの身にもなって欲しい」
「いいだろ、べつに」
王は俺の前であぐらをかいた。
「そもそも顔がわかった方が国民も身近に思ってくれんだろ」
「こっちは、より神経をすり減らさないといけなくなったんだが」
「おかげで飛んできた矢がお前の剣に跳ね返された。それはもう見事だったぜ?」
「見事、じゃないだろう! まったく……」
自分の主だが、自らの立場を鼻にかけることを嫌うざっくばらんとした人柄だ。
「でも、お前がいてくれたおかげだ。俺は死なずに済んだ。ありがとな、タイチョーさん」
王は、端正な顔に血筋を裏切る粗野な笑みを浮かべて俺の肩をたたいた。
「わかった。だが、今まで以上に無茶するなよ」
「へーい」
この高すぎる身分を逆の意味でわきまえないこの無駄に美形な男に俺はため息をついた。
お題『相合傘』
「傘、入る?」
って聞かれたので、頷いてそのまま入ってしまった。学校から帰る時、激しい雨が降っていたので下駄箱前のひさしのところでやり過ごそうとしたら、たまたま好きな子と目があってしまった。
彼女は、折りたたんでいた花柄の傘を開いたところだった。
それで今、俺のとなりには憧れの女の子がいる。
なにを話そうか迷った時、ふいに彼女が口を開いた。
「天気予報はずれたねー」
「あ、あぁ」
本当は天気予報なんて見てないのに、彼女に『ニュースを見ないやつ』だと思われたくなくて話を合わせる。
俺を見上げてくる好きな子はすごく可愛い。会話がはずまなくてもとなりにいるだけで目の保養だ。だから、じっと見てしまうことで嫌われるのを避けたい。
「あ、あのさ」
「なに?」
「どのへん住んでんの?」
「えっと、●●かな。一本乗り換えたとこ」
「あ、そうか」
「山田くんは、学校から近いんだっけ。いいなぁ」
そう、高校は家から一番近いところを受けて選んだ。なのに彼女はすこし遠くて、帰りが別れることにすこし落ち込む。
けど、となりにいるだけで幸せな気分なので俺はあれからも必死に会話を続けた。べつに話ははずまなかったけど、彼女が笑ってくれたからよしとする。