お題『愛を叫ぶ』
「はぁー、推しマジ最高! もう、ビバ推しって感じ!」
数人のクラスのオタクグループが今日も騒がしい。今日も彼女達は、机の上にグッズを広げながらデカい声で彼女の推しの話をしている。
それを遠くからクラスのカースト上位の男子たちが教室のすみに集まって、彼女達に絶妙に聞こえそうな声のトーンで笑いながら「あいつら、キモ」とひそひそ話をしている。
私はこの休み時間が嫌いだ。自分の好きなものをあけっぴろげに話すのも、自分の好みに合わないものをやめさせるような空気を作るのも。
この時間がくるたび、早く家に帰りたくなる。
家に帰って、自分の部屋に入る。ここからは、自分だけの時間だ。
「Aくん、ただいまー!」
そう言って、私は自分のベッドにダイブして推しのぬいぐるみを抱きしめて特ににおいもしないけど、匂いを嗅ぐ。
私は隠れオタクで、よりによって悪目立ちするクラスメイトと推しが同じである。だが、私はガチ恋勢で、同担拒否だから仲良くなることは出来ない。
それに自分が好きなものを「俺達にとって不快だからやめろ」と言われたくない。
「あーん、もう、Aくん好き好きー! 学校なんてもう行きたくない、Aくんと一緒にいたいよぉー!」
私はベッドでごろごろ転がりながら、推しへの愛を叫び続けた。
お題『モンシロチョウ』
このお題について書こうと思って、モンシロチョウが意味する、たとえば花言葉だったり宝石言葉のような感じで虫言葉というのもないのかと思って、Googleで調べようと思った。
だが、私は『虫』という存在が大の苦手である。虫の実物の画像を見るだけで吐き気を催すほど虫が苦手だ。モンシロチョウは、まだいいが別の虫にぶちあたった時、一日の気分が最悪なものになりかねない。
しかし私の手には今、Google Pixelが握られている。Google Pixelには、GeminiとかいうChatGPTみたいになんでも教えてくれるツール? みたいなものがあって、今、それで『モンシロチョウ 虫言葉』について調べたら、虫言葉はないらしいが、そのかわり創作に使えそうな情報を手に入れることが出来た。それも文字だけの情報で。
私は虫の画像を見事回避することに成功したのだ。
お題『忘れられない、いつまでも』
私の目の前で女が土下座をしている。待ち望んでいたはずの光景なのに、私は自分が驚くほどなんの感情がわかないことに気がついた。
私は、中学生の頃、今土下座をしている女に目をつけられいじめられていた。多分、その女よりも成績がいいからだったというそれだけの理由。
事あるごとに教科書やノートを捨てられたり、体操着を隠されたり、嘘の噂を流されたり、みんなの前で私の声真似をしたり。そんな不愉快なことが続いて、不登校になるのは悔しいからその女と同じクラスでいる間は耐えた。
それでも、何年かは、中学や高校、大学生になった今でも時々彼女の顔が出てきてはやり場のない怒りにさらされていた。
その女が今、土下座をしている。それはなぜか。
たまたま同じ地元のスーパーのバイトが一緒になった。なにもしてこなければ、挨拶もせず、初対面のふりをしてやり過ごそうと思っていた。本当は、ひどいことをしてやりたかったけど。
だが、あの女は中学の時と同じように私についての悪い噂を流そうとした。だから、私は反撃したのだ。
なにをしたかというと、同じバイト先の人に『あいつにいじめられていた』という事実を触れ回ったのだ。
私は自分で言うのもなんだがバイト先からの信頼を得ている。仕事も出来ると思われている。だから、後から入ったいじめっこが孤立するのは時間の問題だった。
ある時、私がその女とたまたま二人きりになった時、「いじめだと思ってたの? ごめんね」と言った後、猫なで声で「だからぁー、あたしの噂取り消してくれないかなぁ?」と言いやがったのだ。
だから、私は出来るだけ冷たい声で言った。
「いいけど条件がある」
いじめっこの額に血管が浮き出たのが見えた。私はそれに屈さず続ける。
「地元の公園でさ、土下座してよ」
向こうは最初キレていたが、「それやらないと噂取り消さない」と言ったら、帰り道、地元の公園でしぶしぶ土下座していた。
いつかやらせようと思っていた。だが、実際目の当たりにすると本当に何の楽しさも湧かないことに気がついた。
その女は顔を上げる。
「ねぇ、やってやったんだから気が済んだでしょ!」
「なるほど、反省してないんだね」
「するわけないじゃん! ってか、いじめって騒ぎ立てんじゃねーよ、あんな大した事ないこと!」
「あっそう。なら、取り消さない」
「くそっ。あんたのくせに!」
私はしゃがんでじっとそいつの顔を見つめる。私の時はうわばき履いた足で頭を踏みつけられたっけなぁと懐かしむ。だが、私はそんな低レベルのことはしない。ただひたすら見つめるだけ。
「気持ち悪いんだよ、なんだよお前」
って言われても私はずっとその女の反省しない顔を見つめ続けた。いつまでも忘れられずにいたことが、ここにきて仕返し出来たのに、驚くほど楽しくもなく、ざまぁ展開が訪れた時の汚い爽快感もなく、ただ
(やっぱり、一生許さないし、ずっと忘れてやらない)
と心に誓っただけだった。
お題『一年後』
毎年のようになにかが変わっているといいな、とその時は思う。たとえば、恋人が出来ていればいいなとか、より残業が少ない部署に行くことが出来ればいいなとか、給料が上がっていればいいなとか。
けれど、今振り返ってみると結局去年どころか、数年くらい生活がなにも変わらなくて、ある意味諦めてる節があるんだよね。
お題『初恋の日』
ついにこの日が来たか、と私は日記帳を開く。今日、私は見ているだけで胸がときめく人に会った。
出会ったのはバイト。今日来た新人は、背が高くて細くて、目が前髪で隠れていてミステリアスな感じで、私の心を鷲掴みにした。今まで女の子しかいない学校に通っていた私は、はじめて感じる胸の高鳴りに「これが恋!?」とさっかくした。
だから今、こうして日記を書こうとしている。
どこかの作家じゃないけど、「今日は初恋記念日♡」としめくくるつもりだ。