「窓から見える景色」
上昇していく景色。先ほどまで自分がいた場所はとうに豆粒のように小さくなっている。
やがてそれすらも雲に覆われて、青空と輝く太陽と、雲の絨毯の景色のみが覗く。
そう、今私は飛行機に乗っている。
「形のないもの」
形がないもの――例えばそれは概念。
世界とか社会とか、愛とか。
言葉は知っていてもそれがどんな形なのか、どんな匂いなのか、どんな手触りなのかを私たちは知らない。
見えない、聞こえない、触れられない――知らない。
そんなものだからこそ、人々をつなぐことができる。
形のあるものであればこの形は好きじゃないだとか、匂いであればこの匂いは吐き気がするだとか、手触りであればこの触感は気持ち悪いだとか、好き嫌いが分かれる。
形がないからこそ人の想像によって好きなように考えることができる。
形がないもの。それは人々をつなぐもの。
「空が泣く」
この大きな空はまるで人の感情のようで。
ある地域ではめいいっぱいの晴れ、ある地域ではざんざん降る雨、ある地域ではぱっとしない曇り。
人の内面は多角的に見る必要がある。空も同じ。
笑顔の下ではもしかしたら泣いているかもしれない。
私たちが見えているこの空は、今日は一体どんな気持ちなのだろうか。
「君からのLINE」
送る。送らない。いや、やっぱり送ろうかな……。
こんな文章でいいのかだとか、もっといい話題はないのかだとか、これじゃあすぐに会話が終わってしまうだとか、様々なことを考えてしまい、文字を打っては消して、打っては消してを繰り返すこと数十分。
LINEを送る。
たったそれだけのことにここまで悩むなんて。LINEがなかった時代は恋文で思いを伝えたんだと親から聞いたが、今も昔も思い人に文字を送るという文化は変化していないのだなと感じる。
相手のアイコンをタップし、プロフィール画像を観察する。本日、あるいは本時、六回目の観察である。
プロフィール画像をみてセンスいいなとか、ステメを読んでこんなこと考える人なんだなとか、あたかも初めてみるかのような反応をしてしまう。六回目なのに。
うぅー!と唸り声を上げながら枕に顔を埋め、だらしなく足をバタバタと上下させる。
やっぱりやめようかな……。
文章を送るだけでこんなに体力を使っては他のやるべきこともできなくなってしまう。
ごろりと寝返りをうち、仰向けになって考えていると手元のスマホが振動した。
驚いて上体を勢いよく起こしてスマホの画面を見ると、先ほど悶々とLINEを送るか否か考えていた相手からだった。
暫くロック画面を眺めていたが、表示時間が経過して暗くなったことによって目が覚めた。
スマホをタップし、ロック画面を表示させる。それをスクショして、すぐにLINEを開く。
やっぱりメッセージ送ろう!
数日はあなたからのLINEが来たという事実だけで天へと昇れそう。
「大好きな君に」
3月。
それは、始まりへの終わりの季節。
先輩が卒業する季節。
きっかけは些細なことだった。書道部に所属している私は、先輩の書く字に惚れた。
繊細で、且つ、字の先端まで生きてるような大胆さも持ち合わせている。そんな先輩の字に惚れた。
たったそれだけのことだった。
字に惚れただけだったのに、いつしか先輩自身に惚れ始め、今や大好きな先輩の字すらも直視できないほどにこの思いは膨れ上がっている。
***
卒業式は本来なら在校生は出られない(体育館の狭さの関係で)。
しかし、私は寒空の中、先輩が学校から出るのを待った。
卒業式が何時間かかるかも知らず、ただただ、先輩にこの思いを告げるために待ち続けた。
やがて、校舎からワラワラと人が出てきた。
私は目を凝らす。
先輩を探す。
先輩は最後の方に出てきた。殆どはもう帰路についていたところだったため、探すのは容易だった。
「先輩!」
私は先輩の方に駆ける。
先輩は私をみて驚いているようだったが、すぐにいつもの優しい笑顔を向けて
「伝えたいことがあったんだ」
と、私が思いの丈を述べるよりも先に先輩が口を開く。
「伝えるのが遅くてごめん。――大好きな君に」
それを聞いた瞬間、私の目からは大粒の涙が零れ落ちた。