「大好きな君に」
3月。
それは、始まりへの終わりの季節。
先輩が卒業する季節。
きっかけは些細なことだった。書道部に所属している私は、先輩の書く字に惚れた。
繊細で、且つ、字の先端まで生きてるような大胆さも持ち合わせている。そんな先輩の字に惚れた。
たったそれだけのことだった。
字に惚れただけだったのに、いつしか先輩自身に惚れ始め、今や大好きな先輩の字すらも直視できないほどにこの思いは膨れ上がっている。
***
卒業式は本来なら在校生は出られない(体育館の狭さの関係で)。
しかし、私は寒空の中、先輩が学校から出るのを待った。
卒業式が何時間かかるかも知らず、ただただ、先輩にこの思いを告げるために待ち続けた。
やがて、校舎からワラワラと人が出てきた。
私は目を凝らす。
先輩を探す。
先輩は最後の方に出てきた。殆どはもう帰路についていたところだったため、探すのは容易だった。
「先輩!」
私は先輩の方に駆ける。
先輩は私をみて驚いているようだったが、すぐにいつもの優しい笑顔を向けて
「伝えたいことがあったんだ」
と、私が思いの丈を述べるよりも先に先輩が口を開く。
「伝えるのが遅くてごめん。――大好きな君に」
それを聞いた瞬間、私の目からは大粒の涙が零れ落ちた。
3/4/2024, 11:48:53 PM