某ゲーム二次創作
煌々と輝く満月の下、少女が一人ススキの穂を片手に舞う。
紫の髪が揺れ乱れるが一心不乱に真剣な眼差しで少女はひたすらに舞い踊る。
彼女の持つススキの穂も月の光を浴び黄金色の穂がしなやかに揺れた。
少女の名は零姫、齢1000年の刻を生きる妖魔。
故あって幽界の社に身を寄せている。
傍らには彼女を見守る社の白狐達。
狐の群れの中、一人の人影があった。
少女は、ロックブーケは金色の瞳で舞をじっと見つめる。
彼女の銀青灰の髪は満月の輝きが射し込み淡く照らされていた。
「生から水分が抜けてきたちょうどいい按配のススキがいいのじゃ。枯れきってもダメという。」
十五夜の満月の夜、零姫が毎年行う豊穣の神に捧げる奉納舞。
踊る前に屈託の無い笑顔で彼女なりの神楽舞のための仕草や道具についての拘りを解説されたが━
「その違いが全くわからないわね!」
妖魔というものは揃いも揃って拘りが強くてわからないわ、とロックブーケは呆れつつも零姫の舞踏を見やる。
舞は美しく凛として一つ一つの所作に隙が無い。
ロックブーケは社に仕える妖魔について興味があった。
生来陰の世界の者が何故聖域に仕えるのか、その理由。
聖域には魔に属する者には結界等いくつも巧妙な罠が仕掛けられていてやや入りにくいところがある。
強力な魔の力を持つ彼女には聖域もあくまで物見遊山の場所の一つに過ぎない━
「流れついてどこにも身を寄せる場所の無かったわらわを皆が快く迎え入れてくれたのじゃ、ここは聖も魔も包み込んでくれる。以来社がわらわの家じゃ。」
ロックブーケには仲間達と共に遥か深淵に追放された過去がある。
零姫の流浪の旅で彷徨う者の痛みは痛いほど共感できるのだ。
「…家か、あんたはいい家に出会えて良かったわね。」
舞が終わると零姫がやってきた、彼女の元にはわらわらと労うように白狐達もかけ寄ってくる。
「素敵だったわ。」
「神前奉納だからのう今宵は特別じゃ。」
一匹の白狐が朱塗りのおかもちを持ってきておずおずと零姫に差し出す。
「ありがとう、御神前のお下がりじゃ如何かえ。」
ロックブーケにお猪口を差し渡すと器に神酒を丁寧に注ぐ。
「悪いわね頂くわ、ありがとう。」
朱塗りの器に神酒が滔々と注がれると満月が鮮やかに浮かび上がる。
豊穣の神の夜祭はいよいよ宴も酣(たけなわ)に差し掛かろうとしていた。
【すすき】
「古くからすすきは神様の依り代と考えられていました。
茎が中空(内部が空洞)のため、神様の宿り場になると信じられていたのです。 また、すすきの鋭い切り口は、魔除けになるとも考えられました。 そのため、お月見のすすきには悪霊や災いなどから収穫物を守り、翌年の豊作を願う意味が込められています。」
「ススキ」
某ゲーム二次創作
強さと引き換えに様々な能力・記憶・感情を引き受け共有してしまった、いつの間にか脳裏には色々な自分がいる。
それぞれの想い…愛情・友情・勇気・夢・憧れ・希望・願望・使命・責務・誇り・連帯・嫉妬・羨望・焦燥・悲哀・哀惜・諦め・挫折・怒り・憎悪・殺意。
おかげで本当の自分がよくわからない、自分はどこにいるのだろうか何をしたかったのだろうか。
いつの間にか自分の感情が本当の自分が見えない…視えない…観えない…。
「脳裏」
某ゲーム二次創作
「ふむ、この鍛錬が意味の無い事と思うか?」
「確かに他者の力を自在に奪うことができる術を使えば強くなれる、しかし重要なのは力を使いこなすのは俺自身だ。」
「術については長い間研究したが使い手自身が強くなればさらなる強みを引き出せる、故に鍛錬が重要なのだ。」
手合わせを終えたノエルはいつもより饒舌に語った。
エデルはノエルが闇の剣の使い手だと知りつつも彼が持つ探求心の強さに尊敬の念を持った。
「貴方はさしずめ闇の世界の求道者ですね。」
ノエルはエデルの指摘に感心する。
「君には俺がそう見えるか。」
実際力を求める者に惹かれることが多い、手合わせを介してエデルもなんとなく意気を通じるのだろうか…。
「この術を使うようになってから…なんとなく同じ志を持つ者がわかるらしい、やはり力を求める者同士惹かれ合うのが何故だかわかるんだ。」
エデルはノエルの尋常では無い剣撃と気迫に空恐ろしさを感じていた。
常軌を逸した強さは怪物の力を己のものとする術だけではなく使い手の研ぎ澄まされた意思がさらなる強さを引き出している。
自分も彼には獲物のうちの一つなのだろうか、純粋な興味から思わず問いかけが出た。
「私も剣の道を知る者の端くれ、私も貴方によって力を奪われる対象に入りますか?」
エデルの率直な問いにノエルは一瞬驚きの表情を見せるが平静な面持ちで答える。
「いや君は暖かな人だし純粋で気高い志がある、君を術の対象にしようとしたらたちまち反発してしまうだろうな。」
「なるほど、無意味な詮索でしたね今日はありがとうございました。では、これにて…。」
エデルは会釈をするとその場から立ち去った。
ノエルはエデルが遠くに見えなくなるまでその場からじっと動かなかった。
「エデル、君みたいにもっと純粋だったら俺は違っただろうな復讐の道など選ばなかっただろう。」
ノエルにはエデルが眩しかったいつの間にか自分が忘れてしまってた純粋に人を助けたいひたむきさ、心の強さ。
かつての自分も持っていた気持ちを彼はまだ大事に持っていた、それが羨ましくもあり眩しかった。
もしもとかあの時ああしていればとか考えるのはそれこそ意味のないことだと想いながらノエルは過去を断ち切るかのように虚空に向けて剣を一閃した。
「彼は活人剣、俺は復讐の剣だそれでいい…。」
「意味のないこと」
大きい手、だからこうやって隣合って寝ていたい。
普段はあまり言わないけど大好きだよ。
そりゃたまに口喧しい時はあるけれどいつも本気で心配してくれる。
憧れの人とはまた違う憧れの人。
あなたとわたし長い時間一緒にいるしまだまだこれからも一緒なのよ。
だから本当に感謝してる…。
でもこの気持ちはあなたに言わないわ、これは私だけのもの。
普段欲しがることが少ないあなたと違って私はとっても欲張りなの、もっともっと欲しいのよ。
もっと愛して、心配して?さあ私を見なさいよ…。
「あなたとわたし」
某ゲーム二次創作だけど最早三次かもしれない創作
翠緑の竹垣の細い路地を急いで進んでいく。
ここは古都の現と幽冥の境目、竹垣の路地は複雑怪奇に入り組んでいる。
ふと足元の欠けた石畳を見る、この石畳の傷の形状は先程見たような…。
「まずいな迷ってしまったか?」
旧い地図と周囲の状況を照らし合わせ細心の注意で進んだはずだったがいつの間にか迷ってしまったようだ。
この路地全体に結界が張り巡らされて複雑な迷宮となっている、この中で大きな力を振るうことは禁じられていて使ってしまえばたちまち反転して逆に自分に襲いかかる仕組みになっている。
古より聖と魔が出入りする都ならではの罠であり災
いを遠ざける知恵でもある。
このまま翠緑の竹垣に永遠に掴まってしまうのだろうか。
「一刻も早く戻らねば…。」
待っている者がいる、簡単に諦めるわけにはいかない。
惑わすかのように非常に細かい雨が降り出した。
冷静になって周囲の竹垣、垣根の迷路を突き進んでいく。
焦るな冷静に周囲の状況を見ろと己に言い聞かす。
似たような景色がひたすら続いていく。
竹垣を右に曲がり左に折れてゆく、やっとのことで竹垣の迷宮を出ると周囲一面は朱く輝く紅葉の景色となって出迎えた。
小山は秋を向え燃え盛るような紅葉に様変わりし麓には小さな池があった。
池のほとりに佇む人影がある━、彼女だ。
彼女は透き通るかのような青灰銀の髪にビロードのような黒の衣、細かい水玉が髪にふんわりベールのようにかかっているかのようだった。
「遅〜い!待ちくたびれました。」
彼女はむくれた顔でこっちを見やる。
「悪い、遅れてしまった雨が降ってきたなさあ行こう。」
ひとしきり謝るとむくれる彼女に急いで上着をかける、雨はまだ繊細に降り続いたままだ。
彼女はほっとした表情でふいに手に触れてくる少しひんやりとした柔らかな感触がする。
「行きましょ。」
柔らかな手に触られ握り返すと握った手と手が次第に熱を帯びてゆく。
瞬間雨もまるで柔らかに感じられるようなそんな心地よい感じの中、紅葉する山々を背に帰路へ着くのだった。
「柔らかい雨」