毎日来て良い、とは言っていないのだがな。
『また明日』
確かに存在しているのに見えはしないということは無に近いだろう
そこにあるとわかっていても空気を意識することはないからな
花見をしようと彼女が広げた料理と酒に手を付けながら名前もわからん花を眺め、
花の香りに絡まるように知った香りが風に乗っても、
わたしはあいつのようには口にしない
だから『透明』は無に近いのさ
『理想のあなた』
快晴の朝に起きて羽布団が自分の体温でぬくぬくふわふわしてるのを存分に味わい、起き上がるときは高く上げた脚を振り子のようにしてベッドから滑り出るんだよ。少し硬めで香り高い石鹸を使うのが愉しくてふわふわもこもこの泡を作り過ぎて顔に乗せるとそれも愉しくて!お湯をゆっくり注いでコーヒーをドリップしたら、たっぷりバターを加えて撹拌する。朝の一杯はこれが最強。このまま今日を眠ったら明日はもう目覚めないのが理想だよなぁって、後は一日が終わるまでぼやぼや生きる。
たまにあなたに会えて、来たかって言われてそんな話をしてまたなって言われて別れる。これ以上の理想ある?それとも洞窟の比喩の話する?イデア論は私も好きだよ
あそこまでお膳立てしてやったのに、まさかどちらの席にも座らないとは思わなかった。欲しいと言うのに手に入るとわかると逃げ出す。あのときの私達の当惑は見物だったぞ。
『突然の別れ』
連絡が絶たれたとわかった後は大変だった。呼び戻すためにかなりの無茶をしたからな。よりにもよってな相手ばかりを追いかけ、逃げ場はないのに逃げていく。毎度呆れて驚かされる。その後始末にどれだけ振り回されたか。
声が聞ければ幸せだと毎夜逃避してくる彼女を二人で見守ることにした
逡巡の末に進んだ時間は幸福だったと思うのだが、わたしが恋を覚えることはなかった
少し嫌いになったほうがいいと諭しても、必ず忘れると約束しても、わたしが良いと離れていかず、わたしの隣で恋する男を彼女が選ぶことはしない
懸命に孤悲する姿は滑稽だから愛おしい
残酷なことだ
『恋物語』