急に突風が起こり丸裸の木々の枝を揺らしだした。
上側に辛うじて枝にしがみついていた枯葉が、引っ張ってくる風に耐えかねて飛ばされる。
宙を舞う枯葉を目で追い、湿ったアスファルトに落ちていく様を見届けた。
そんな変哲もない光景を可哀想だなとか、辛かったねなどの感情移入をすることはなく、ただ散ったなと思うことしかない。
散歩道に散らばる色をなくした枯葉を踏みつけるとパリッと薄いチップスが割れるような音がした。
「なにしてんだよ」
懐でもぞもぞと動かれるくすぐったさで目を覚ました。
オレの声に反応して布団から顔を顔を出した彼女は、にこりと笑った。どうもイタズラしてましたという表情をしていて、オレは呆れながらも許してしまう。
惚れた弱みってヤツかな。
彼女はオレの腕に頭を乗せると、目線を合わせる。
ぱっちりとした目でじーっと見つめてくるもんだから、恥ずかしさを誤魔化して、ひたいにキスをした。
その後に胸元に抱き寄せて、人肌の温もりを堪能する。
目が覚めたら隣に彼女がいるってこんなにも幸せなんだとしみじみと実感した。
もう、寒さが染みる冷たい布団には戻りたくないなと、絡まりのない髪に指を通した。
「ゴホッ……ゴホゴホッ!」
喉奥で小石が転がってるような痛みが走る。
鼻が詰まって息がしづらくて、口で呼吸する。
そうしたらまた咳の波がよし寄せて、布団の中でうずくまった。
「酷い咳ね。大丈夫?」
僕の症状を気にして、母が体温計を持ってきた。
僕は体温計を受け取ると、銀色の先を脇に挟んだ。
ピピピッ……38.7℃。
下がりそうにない熱に、頭がクラクラする。
熱さまシートも沸騰したみたいに、冷たくなくなった。
僕はとにかく、ほてった体を少しでも下げたくて、母の手をほっぺたに当てた。
「んー、母さんのおてて、ひんやりして気持ちいい……」
「あら、いつもだったらべったりしてこないのに」
母は意外そうに驚いたあと、目元を細めて笑っていた。
僕だって甘えたい時があるんだよ。
いつも、お仕事で忙しくしてるから、わがまま言わないでおとなしくしてるんだ。
でも、今日は風邪を引いてよかったと思う。
母と一緒に居られて僕は嬉しい。
この時だけ、僕は甘えられることを許されるんだ。
あーあちぃー。
もう、12月だというのに、着込んだコートの中で熱気が渦巻てやがる。
ネックウォーマーなんてすんじゃなかった。首元が妙な汗で蒸れて気持ち悪い。
風は冷てぇのに、体の中だけ南国の空気に包まれているみたいだ。
日差しに当たればさらに体温が上がって、風邪を引いてないのに熱っぽくなってきやがる。
これだから、暑いのは嫌いなんだ。
あーもっと寒くなんねぇかな。
とびっきりひんやりとした寒風を体に受けたい。
澄んだ寒空の下で肉まんに食いながら歩きてぇし、おでんの出汁を飲んで温まりたい。
そして、その空から降り下りる雪を待ち侘びてんだ。
眠れないほど、テレビを見ている。徹夜で。