紫小灰蝶

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「ゴホッ……ゴホゴホッ!」
喉奥で小石が転がってるような痛みが走る。
鼻が詰まって息がしづらくて、口で呼吸する。
そうしたらまた咳の波がよし寄せて、布団の中でうずくまった。

「酷い咳ね。大丈夫?」

僕の症状を気にして、母が体温計を持ってきた。
僕は体温計を受け取ると、銀色の先を脇に挟んだ。

ピピピッ……38.7℃。

下がりそうにない熱に、頭がクラクラする。
熱さまシートも沸騰したみたいに、冷たくなくなった。
僕はとにかく、ほてった体を少しでも下げたくて、母の手をほっぺたに当てた。

「んー、母さんのおてて、ひんやりして気持ちいい……」

「あら、いつもだったらべったりしてこないのに」

母は意外そうに驚いたあと、目元を細めて笑っていた。
僕だって甘えたい時があるんだよ。
いつも、お仕事で忙しくしてるから、わがまま言わないでおとなしくしてるんだ。
でも、今日は風邪を引いてよかったと思う。
母と一緒に居られて僕は嬉しい。

この時だけ、僕は甘えられることを許されるんだ。

12/17/2023, 12:41:45 PM