仕事帰りに電飾が設置された街路樹に目がいく。
日が落ちてすっかり暗くなっているのに、ライトアップされなくて、ちょっとがっかりした。
待ち遠しいわけではないが、大通りが金や青などの美しい輝きに包まれる彩りを見てみたかったのだ。
その光景を見るのはまだ先かもしれない。
微風で揺れる木の音に侘しさを誘われて、マフラーに顔を埋めて、最寄駅に続く横断歩道を渡る。
冬の始まりに期待を抱きながら待つことにした一歩を踏み出して。
「さみぃ」
気温が低い時期は、つい悪態をついてしまう。
低血圧で目覚めも悪い私は、お布団の中で行動するためのエンジンを温める。
お布団からやっと抜け出すと、電気ストーブの前で暖を取りタンスの引き出しを開ける。
強い風が窓をガタガタ鳴らす。
陽が出ていない天気なので、厚着した方がいいとセーターに手が伸びていく。
どん底の沼に落ちていく。
ああ、真っ暗だ。何も見えない。
怖くなくても地に足がつかない感覚に落ち着けず、消えてしまいたいくらいに投げやりな感情を自分にぶつけた。
私に生きている価値はあるのだろうか。
「指示がないと何もできないんだね」
社会人一年目で覚えるのに必死なんだよ。
「補充した備品が減ってるんだけど?アンタ取ったんじゃない?」
盗んだ証拠もないのに疑うな。
「お前に構ってられる暇はないんだよ」
相談に乗ってほしいだけなのに、突き放さないで。
何もかも上手くいかず、心は黒い感情に蝕むられた。
私には何も失うものがない。
だから、落ちていくんだ。
深く……もっと深く……
浮上でいないとこまで行くんだ。
膝を抱えて無駄な思考回路を止めた時、箱のような物に当たった。
何かと顔を上げれば段差があった。
退かせないかと押してみるとふわっと光り、その少し高い位置に段差が増えた。
それが目障りで身を乗り出して同じことをしようとすると、触れた瞬間に小さな眩さが迸った。
また、その上に段差が現れ、這い上がりの繰り返し。
「登って行けって?私はこの闇の中にいるほうがいいの。 余計なことしないでよ!」
それでも増え続ける段差は天に向かって伸びていき、いつしか私は立ち上がり駆け出していた。
「もう充分に塞ぎ込んだだろうって? ふざけないでよ、暗い中でいたままでいいならそのままでいたいんだよ」
分かっているが階段にやつ当たっても返答なんてない。
途中止まって引き返そうと何度もしたが、体が勝手に上へと進んでいく。
「私はこのまま死にたいと思った。散々嫌なことを言われ、怒られてきて、イライラした。それなのに、私は自分の未来を終わらせたくないんだ」
目元が熱くなりグッと堪えると、長いトンネルの先を目指すように階段を踏み込んだ。
自分にとって夫婦のいい例は両親だ。
いつも仲がいいとは限らないが、基本的に穏やかだと思う。
母の言うことに素直に動く父。
父の趣味に渋々ながらも寛容な母。
夫婦の形は何通りもあるのだろう。
だが。
見ているこっちが恥ずかしくなるくらい睦み合うのはやめてくれ。
青い線を切った!
この後、どうすればいいの!?