紫小灰蝶

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どん底の沼に落ちていく。
ああ、真っ暗だ。何も見えない。
怖くなくても地に足がつかない感覚に落ち着けず、消えてしまいたいくらいに投げやりな感情を自分にぶつけた。

私に生きている価値はあるのだろうか。

「指示がないと何もできないんだね」

社会人一年目で覚えるのに必死なんだよ。

「補充した備品が減ってるんだけど?アンタ取ったんじゃない?」

盗んだ証拠もないのに疑うな。

「お前に構ってられる暇はないんだよ」

相談に乗ってほしいだけなのに、突き放さないで。


何もかも上手くいかず、心は黒い感情に蝕むられた。
私には何も失うものがない。
だから、落ちていくんだ。

深く……もっと深く……

浮上でいないとこまで行くんだ。


膝を抱えて無駄な思考回路を止めた時、箱のような物に当たった。
何かと顔を上げれば段差があった。
退かせないかと押してみるとふわっと光り、その少し高い位置に段差が増えた。
それが目障りで身を乗り出して同じことをしようとすると、触れた瞬間に小さな眩さが迸った。
また、その上に段差が現れ、這い上がりの繰り返し。

「登って行けって?私はこの闇の中にいるほうがいいの。 余計なことしないでよ!」

それでも増え続ける段差は天に向かって伸びていき、いつしか私は立ち上がり駆け出していた。

「もう充分に塞ぎ込んだだろうって? ふざけないでよ、暗い中でいたままでいいならそのままでいたいんだよ」

分かっているが階段にやつ当たっても返答なんてない。
途中止まって引き返そうと何度もしたが、体が勝手に上へと進んでいく。

「私はこのまま死にたいと思った。散々嫌なことを言われ、怒られてきて、イライラした。それなのに、私は自分の未来を終わらせたくないんだ」

目元が熱くなりグッと堪えると、長いトンネルの先を目指すように階段を踏み込んだ。

11/23/2023, 11:13:36 AM