特別ってなんなんだろう、そう考えていた。でも失って初めて分かった。
「ユリ、嘘だよね?死んだフリ?ねぇ…」
私には君しか居なかった。布団に横たえられた彼女は、もう笑顔を浮かべることはなかった。
笑うと弾ける明るさ。私の傍にいてくれた。ずっとずっと。だから。だからか。
「気がつけなかったね。」
ありがとう。なんて言葉ももう届かないけど、私にとって君は。特別なんだ。
「ずっとずっと好きでした!!付き合ってください」
「は?お前誰?」
衝撃的な一言。背を向ける彼を追うこともできず、ただ顔を覆って泣くしか出来なかった。
涙でぐちゃぐちゃの顔のまま、下を向いて帰り道を1人歩く。そのとき、前から彼の声が聞こえた、
「今日知らないブスに告白されたんだけど笑。身の程弁えろっての笑」
「かわいそー、被害者じゃん笑」
驚きで目を見開く。気がつけば私は走り出していた。
「私バカみたい。なんであんなヤツ好きになったんだろ。最低。」
自室の鏡の前でハサミを握る。
シャキ…
「ほんと、私って単純。バカみたい笑笑」
泣いてごめんね、心配かけてごめんね。あとさ、なんだっけ。そうだ、今日は花束も用意したんだよ。綺麗でしょ。君、好きだったもんね、ポピー。君みたいな花。ねぇ、だから、もう1回笑いかけてよ。俺たち、ふたりぼっちだろ?なぁ。
「なんで、置いて言っちゃうんだ…」
恋人が亡くなった。交通事故。僕の目の前だった。伸ばせば、手が届くかもしれなかった。
なのに、僕は…
彼女の亡骸を見て、涙があふれる。吐くほどの感情が大粒の雨を作った。彼女の手の温もりも、あの笑顔も優しさも感じられなかった。
「ごめん、ごめんなぁ…」
葬式の日、僕は布団から1歩も動けずにいた。どうしようもない怖がりで、臆病で、クズだった。寝返りを打つ。涙が頬を伝う。
「…ごめんなぁ……」
呟くと、眠気に襲われる。気絶するように、それまでの睡眠不足が一斉に襲ってきた。
『りお、待てって!』
『やーだね!こっちおいでよ!』
そこには、りおの笑顔があった。元気に動く姿が見えた。僕は思わず抱きついた。
『きゃっ!なにするのよぉ』
びっくりしたように、照れたように彼女は言う。
『僕さぁ、君がどこか遠くに行っちゃう夢を見たんだ。だから、怖くて。』
そう言うと、彼女は僕を突き放すように言う。
『そうだよ。私は、もう遠くに行くの。私たちが一緒に居られるのは、今だけ。夢の中だけ。』
寂しそうな笑顔で、彼女は語る。
『だから、夢が醒める前に、夕に話したいことがあるの。』
『いやだ、いやだ!!夢なんて、夢なん醒めるなっ!行かないでっ!』
『ううん、だめ。夕、ちゃんと前に進んで。私はもう十分に幸せなの。ありがとう。』
覚醒と、眠りの狭間で意識が揺らぐ。僕は、とうとう目覚めてしまった。
もう何度寝ても、彼女はでてこなかった。夢が醒める前に、僕は。なにができただろう。
上がる度、高揚感と胸の高鳴りを感じていたステージ。でも、今は違う。
「るるちゃん?大丈夫?」
ステージ上での失敗。有り得なかった。セリフが、飛んだ。
「ごめん、ごめんなさい。みんな、ごめんなさい。」
「いーよいーよ、大丈夫!」
そう言ってくれたのに、私は。逃げ出してしまった。
いつかは、あのステージに咲く花になれるのかな。なんて、有り得ないけど。