恋人が亡くなった。交通事故。僕の目の前だった。伸ばせば、手が届くかもしれなかった。
なのに、僕は…
彼女の亡骸を見て、涙があふれる。吐くほどの感情が大粒の雨を作った。彼女の手の温もりも、あの笑顔も優しさも感じられなかった。
「ごめん、ごめんなぁ…」
葬式の日、僕は布団から1歩も動けずにいた。どうしようもない怖がりで、臆病で、クズだった。寝返りを打つ。涙が頬を伝う。
「…ごめんなぁ……」
呟くと、眠気に襲われる。気絶するように、それまでの睡眠不足が一斉に襲ってきた。
『りお、待てって!』
『やーだね!こっちおいでよ!』
そこには、りおの笑顔があった。元気に動く姿が見えた。僕は思わず抱きついた。
『きゃっ!なにするのよぉ』
びっくりしたように、照れたように彼女は言う。
『僕さぁ、君がどこか遠くに行っちゃう夢を見たんだ。だから、怖くて。』
そう言うと、彼女は僕を突き放すように言う。
『そうだよ。私は、もう遠くに行くの。私たちが一緒に居られるのは、今だけ。夢の中だけ。』
寂しそうな笑顔で、彼女は語る。
『だから、夢が醒める前に、夕に話したいことがあるの。』
『いやだ、いやだ!!夢なんて、夢なん醒めるなっ!行かないでっ!』
『ううん、だめ。夕、ちゃんと前に進んで。私はもう十分に幸せなの。ありがとう。』
覚醒と、眠りの狭間で意識が揺らぐ。僕は、とうとう目覚めてしまった。
もう何度寝ても、彼女はでてこなかった。夢が醒める前に、僕は。なにができただろう。
3/21/2024, 9:29:32 AM