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12/1/2025, 9:48:13 AM

「昔々あるところに」
「おじいさんおばあさんおりまして」
「ある日おばあさん川へ」
「全て飲み干し」
「おじいさん山へ」
「軒並み更地」
「昔々あるところに」
「おじいさんおばあさんおりまして」
「大層大層力の強い」
「おじいさんおばあさんおりまして」
「桃食べ猿食べ犬食べ鳥食べ」
「鬼食べ島食べ宝も食べ」
「そうしてそうして」
「世界は平和」
「それがそれが」
「いつかのはなし」

‹君と紡ぐ物語›


風鈴を壊してしまった
寒くなったから仕舞おうとしたのだ
薄い硝子に花火の咲く
可愛らしい風鈴だった

水琴鈴を壊してしまった
汚れてしまったから洗おうとしたのだ
金色の球に桃白を水引く
可愛らしい水琴鈴だった

 鈴を壊してしまった
怯えていたから守ろうとしたのだ
黒く長い髪に薄赤い頬の
可愛らしい子供だった

‹失われた響き›


赤い間に細かく細かく
白が入っているお肉は美味しいのだと
薄白い粥を啜りながら
おじいさんは懐かしげ
黒い土瓶に温かな
茸とお出汁が香りいいのだと
乾いた野菜を食べながら
おばあさんは深々ため息
今しか知らない私には
あんまり意味がわからなかったけど
赤い地面に霜が降る
黒い身体から湯気が出る
こんな光景だったのかしら
美味しそうには見えなかったけど

‹霜降る朝›


例えば眠りから覚める瞬間
夢中な本を閉じた直後
ふと現へ還るまでの一瞬
例えば山の頂に届いた時
全力掃除から顔上げた時
ふとピントを合わせる一瞬
身体が呼吸を思い出す

‹心の深呼吸›


私の右腕は母からの
左足は父からの贈り物
私の記憶は祖母からの
知識は祖父からの貢物
私の声は姉からの
両目は兄からの願い事
私の肺は妹からの
胎は弟からの捧げ物
継いで剥いで私の事
血統も歴史も私の事
いつか誰かに逢えるまで
ヒトのカタチの時止箱

‹時を繋ぐ糸›

11/26/2025, 9:56:26 AM

黄色い葉が舞う道で
君はすらりと立っていた
スポットライトが照らすみたいに
指先を黄色く光らせて

赤い葉が積もった道で
君はきりりと歩いていた
レッドカーペットを行くみたいに
爪先を赤く沈ませて

茶色い葉が遊ぶ道で
君はひそり空を見ていた
これから芽吹く華のように
顔を茶色に汚しながら

‹落ち葉の道›


だっていっつも放って置かれるの
あの子が何か訴えるといつも
何を言っても何をしても
こっちをなんにも見なくなる
終いには怒られて
歳上なんだからって理不尽に
そんなのひどいと思わない?
だからあの子が静かになるように
誰にも聞こえないようにしたの
簡単に見つからないようにしたの
そうしたらこっちを見てくれるって
だってね わたし
弟妹がほしいなんて一回も
言ったことなんて無かったのよ

‹君が隠した鍵›


要らない時間だと思いました
無意味に画面を眺めることが
無価値なゲームに打ち込むことが
不使用な知識の習得が
要らない時間だと思いました
無意味な人との懇談が
無価値な人との付き合いが
不合理な人との繋がりが
要らない時間だと思いました
全て切って整理して
綺麗に綺麗にした後は
人生一人になりました
一人きりになりました
それが選んだ道でした
そう選んだ道でした

‹手放した時間›


ふわりと鉄香の風が吹く
そういえば君の誕生日だ
もう随分見てはいないが
どんな姿で何に動いて
誰と共に生きていたのか
何を発し何処で迷い
どうやって生きていくのか
夢想して 夢想して
その姿が幸福であるほど
永遠に訪れないその時を
この上なく嬉しく思う

‹紅の記憶›

11/25/2025, 9:55:53 AM

きらきらした欠片が降り注いでいた
赤に青に様々に光り
集って砕けて形を変えて
きらきらした欠片が降り注いでいた
とても美しく手を伸ばしたかった
組んだまま固められた指では
何も拾うことは出来なかった
きらきらした欠片が降り注いでいた
とても美しく素晴らしかった
手の中刺し穿つナニカもまた
等しく美しいものであれと願っていた

‹夢の断片›


「よお、元気か」
「体はね」
「それなら上等。話は聞いたか」
「まあ、って言っても選択肢なんかある?」
「一人一個ペースで上げてたろ」
「……それ、本当に選べると思って言ってる?」
「言ってるぞ、こっちはな」
「……コレで君達全員の正気を疑わないといけなくなった」
「お前以外全員が狂ってんなら、もうソレが正常だろ。何がご不満だよ」
「無理でしょって言ってるの。正味、今のこの扱いすら疑いモノ過ぎるんだけど」
「無理じゃないぞ、ある程度はな。曲がりなりにも此方の大義名分は『共存』だ。此方が旗振り返してやれば向こうも強く言えない」

‹見えない未来へ›


一撃必殺みたいな面で
正義の味方みたいなウタで
そんなに急いでいかなくても
君は良かったんじゃないかしら

‹吹き抜ける風›


ふと、目の前に小さな灯火が見えた
ふと、それは小さな本を照らしていた
ふと、読んではいけないと声がした
ふと、早く読んでしまうべきと声がした
ふと、袖を前に引かれた
ふと、裾を後ろに引かれた
ふと、其処が何処かを思い出した
ふと、己が誰かを思い出した
ふと、よんではいけないと声がした
ふと、早くよめと声がした
ふと、本の内容を思い出した
ふと、求められたことを思い出した
ふと、足を一歩進めた
ふと、声が小さくなった
ふと、声が大きくなった
ふと、足を進めた
ふと、足を進めた

‹記憶のランタン›


青い葉が無惨に枯れ落ち
黒い肌が赤白く焼け痛み
裸足の子供は冗談みたいに
丸く着膨れただるまになる
それでもまだ秋これはまだ秋
雪が降るまでは冬じゃない

‹冬へ›

11/17/2025, 9:16:26 AM

見送らないでと別れを告げた
ひとりきりの出発式
真円以外の寝静まる
寒く寂しい夜のこと
一等綺麗な思い出残して
涙も言葉も隠すまま
君は一人歩き出す
戻れぬ道を歩き出す

‹君を照らす月›


斑に変色した標識の
横に銀杏が立っていた
斑に変色した標識の
上に銀杏が散っていた
斑に変色した標識の
模様だけが銀杏の証
斑に変色した標識は
今はぽつりと立っている

‹木漏れ日の跡›


いってきますと朝日の影
いってらっしゃいと糸一つ
いってきますと夕日の影
いってらっしゃいと糸一つ
いってきますと夜の闇
いってらっしゃいと糸一つ
重ねて重ねて糸を重ねて
お守りのように絆のように

いってきますと音一つ
かえらぬ返事に灯一つ
そして誰も戻らない
そして誰もかえらない

‹ささやかな約束›


皆を救う仏になるのだと
食を断ち水を断ち早数年
立派に木乃伊化した君の
目の前に折り重なる死体

‹祈りの果て›


迷った時の必勝法は
片手を付いて歩くこと
迷った時の必勝法は
動かないで助けを待つこと
迷った時の必勝法は
壁を天井を壊すこと

入口かあるなら出口はある?
自分がいるなら誰かもいる?
行く先を阻んでいたのは
本当の本当は何だった?

‹心の迷路›

11/11/2025, 11:51:25 AM

くるくるくるくる回るおもちゃを
遠目にふと水面を回した
確かに見た目は似てるけど
確かに非日常に似合うけど
茶道のお抹茶でもあるまいに
カップは何で回るのか

‹ティーカップ›


腕を擦った 肌寒い
約束の時間はとっくの昔
いつまで待てば良かったろうか
いつ離れたら良かったろうか
見たくも無いものを見る前に
動く力を失う前に
どうしたら良かったろうか

‹寂しくて›


おもちゃは子供
絵本は子供
アニメは子供
遊ぶのは子供

仕事が大人
ニュースが大人
難しい本が大人
自立が大人

なんて言われてたけど

おもちゃも絵本もアニメも
作るのは大人
遊ばせるのも大人

遊びも勉強も子供の仕事
ニュースも何でも網羅して仲間内
一人きりの晩御飯も
平気のままして子供時代

大人って呼ぶ年齢だって変わるのに
いつからちゃんと大人と言えるのかな

‹心の境界線›


身一つで空を飛ぶ
その姿に憧れた
同じように飛びたいと
大地を跳ねては転がった

身一つで海を征く
その姿に憧れた
同じように征きたいと
水面を駆けては躓いた

危ないよと伸ばされた
手と手を取って立ち上がる
同じようになりたいと
空海を翔ける友に問う

空を飛ぶ友は笑って言った
君には翼が無いからね
海を征く友は頷いて言った
君には軽さが無いからね
空海を翔ける友は手を取った
君には足が有るからね
君は地を行けるからね

空を飛ぶ友は空しか行けず
海を征く友は海しか行けず
だから空とも海とも違う
君だけの道が有るのだよと

‹透明な羽根›


焔が揺らぎ 影が揺らぐ
どうしようかと意見が沸く
そうという話だったと言え
番だけで生きれるものか
流されてしまった家族と
共に行きていたかった
どうして選びどうして選ばれた
神と人間の傲慢に
たった一つの方舟に

‹灯火を囲んで›

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