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8/23/2025, 8:27:23 AM

「かわいい」
「でしょ。一目惚れしちゃった」
深い夜色の爪先を、鍵盤の上に踊らせて。
無形の旋律は楽しげで、ひどくさみしいようだった。
「かえってこないの」
「ごめんね」
口と目は笑っていた、でもかなしいようにみえた。
空の楽譜がとじていく、その終わりも見届けず。
「あなたの味方でいる。それだけは誓えるわ」
「空の上のかみさまに?」
「あなたと過ごした夜の日に」
「そんなものに?」
「あら、あなたの隣以外で寝た事あったかしら?」
「無いけど」
夜の色が指を包む、薄明るい昼の部屋の中で。
そばにいてほしいと言いたかった、
でも好きだから言えなかった。

‹Midnight Blue›

8/22/2025, 9:26:12 AM

ヒトがゴミみたいな群衆が犇めいている。
若干の安堵と共に歩幅を合わせた。
「よく転覆しないよなアレ。定員オーバーじゃん絶対」
「な。増便するとか大きいの用意するとか出来なかったのかね」
「俺等の時すら酷かった筈なのにな……」
「本当ソレ。アレばっかりはもう一週くらい早めりゃ良かったと思ったわ」
「あの一週楽しくなかった?」
「もっと早くにお前に話しとけば良かったってコト」
土の地面は裸足に痛く、結わえた手首は罪人の如く、それでも道は遠ければ、さいごとよく似た赤黒い空を見た。
「そういや先刻ちらっと聞いたんだが、アッチに行くと空飛べるらしい」
「マジ?!今言うソレ!?うーわ最後まで待ってた方が良かったって話?」
「早く行けたとしてあの群衆に潜れる?」
「嫌過ぎたわすまん、最適解だった」
「だよな」
時々天へと登る光を少し眩しく、下り坂を降りていく。今は会話する余裕のある道も、あの群衆に混ざれば無茶が過ぎた話。
「俺等が飛ぶ頃どうなってると思う?俺は新しい生物と生態系が出来てるに一票」
「星ごと太陽に突っ込んどいて?」
「ソレに適応してどうにかしてるだろ、多分」
「俺むしろ壊滅したが為に宇宙遊泳になる方考えたわ」
「なにそれ浪漫やべえ、めっちゃ良いな」
「だぁろ。……と、」
足音が一つぴたりと止まった。此処では初めて合った視線が、少しの寂しさを湛えていた。
「お前はソッチか」
「ね。そんな罪に差があったかな」
「あー……飛び降り前の遺書分でちょっと軽減されてた」
「まぁじ?書いとけばよかった」
「書く相手いたか?」
「あんた宛てに!」
「全部話しただろばぁか」
「そうだけども!」
足音が一つ止まらない。歩く速度で確実に遠くなっていく。
「先終わっても待ってるからな、今度こそ一緒に飛ぼうぜ」
「今度『も』一緒にだろバカ!すぐ追い付くからな!」
星が滅ぶほんの少し前に飛び降りた、それでも咎は軽くないらしい。
地獄の道行きで空を見た。二人で一緒に飛び降りた、焼けた空の色によく似ていた。

‹君と飛び立つ›


精一杯に考えた
その名にどれほど祈ろうか
その道行きの幸いを
その名にどれほど祈ろうか
一度たりとも呼べなかった
その名にどれほど祈ろうか
それでも確かにここにいた
大切な大切な君のこと

‹きっと忘れない›

8/20/2025, 8:52:58 AM

嬉しいとき
吃驚したとき
心から感動したときに
ヒトは泣くのだと、涙が出ると教わった
だから
だから
知りたくなかった
「悲しいときに涙が出るなんて、
 そんなの知らなかった!」

‹なぜ泣くの?と聞かれたから›

8/19/2025, 9:43:19 AM

昔から裸足の音が聞こえた。
誰も歩いていない場所のことだ。
近付いてきている、と言うと、
君は決まって鼻で嗤った。
そんなモノは聞こえないと、
袖掴む手を振り払った。
近付いてきているのに。
構ってちゃんは嫌いだと、
開いた口を突き飛ばした。
近付いてきているのに。
毎年、毎夏、毎日、
近付いて来ているのに。

ああ、ほら、後ろに、
君の、

‹足音›


8月32日のバグとは有名なモノで
大概は不変の日常がおどろおどろしく崩れる様で
さりとて蝉の音は五月蝿いままに
日照りの青を見上げていた
終わりは来るのかい、と問えば
わたしが望まない限りは、と
終わりたいのか、と問われれば
続いてくれるならそれで良い、と
互いに願った時間ならば
優しい永遠のままで居られるだろうか
一先無用の長物を
川に流すところから

‹終わらない夏›


空を飛んでみたいのだと
案外正気の目が言った
雲を嵐を突き抜けて
地上の全てを見れる程に
天の国に問には行かず
地の底に問うことも無く
純粋な真実だけで良いと
狂えなかった目が言った

‹遠くの空へ›


大体の感情は言葉に出来て、
記号はその補助をしてる筈。
記号も重ね組み合わせ、
意図を複雑に織り込める。
それでも意味が足りないなら、
それでも表し足りないなら、
「それはきっと、現したらいけないモノなんだ」

‹!マークじゃ足りない感情›

8/15/2025, 9:33:29 AM

雪がちらちら降っている
あぁでもあの日は夏だった
木漏れ日ゆらゆら揺れている
あぁでもあの時は夜だった
星がきらきら瞬いている
あぁでもあの日は曇だった
景色くらくら回っている
あぁでもまだいき続いている

‹君が見た景色›

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