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8/22/2025, 9:26:12 AM

ヒトがゴミみたいな群衆が犇めいている。
若干の安堵と共に歩幅を合わせた。
「よく転覆しないよなアレ。定員オーバーじゃん絶対」
「な。増便するとか大きいの用意するとか出来なかったのかね」
「俺等の時すら酷かった筈なのにな……」
「本当ソレ。アレばっかりはもう一週くらい早めりゃ良かったと思ったわ」
「あの一週楽しくなかった?」
「もっと早くにお前に話しとけば良かったってコト」
土の地面は裸足に痛く、結わえた手首は罪人の如く、それでも道は遠ければ、さいごとよく似た赤黒い空を見た。
「そういや先刻ちらっと聞いたんだが、アッチに行くと空飛べるらしい」
「マジ?!今言うソレ!?うーわ最後まで待ってた方が良かったって話?」
「早く行けたとしてあの群衆に潜れる?」
「嫌過ぎたわすまん、最適解だった」
「だよな」
時々天へと登る光を少し眩しく、下り坂を降りていく。今は会話する余裕のある道も、あの群衆に混ざれば無茶が過ぎた話。
「俺等が飛ぶ頃どうなってると思う?俺は新しい生物と生態系が出来てるに一票」
「星ごと太陽に突っ込んどいて?」
「ソレに適応してどうにかしてるだろ、多分」
「俺むしろ壊滅したが為に宇宙遊泳になる方考えたわ」
「なにそれ浪漫やべえ、めっちゃ良いな」
「だぁろ。……と、」
足音が一つぴたりと止まった。此処では初めて合った視線が、少しの寂しさを湛えていた。
「お前はソッチか」
「ね。そんな罪に差があったかな」
「あー……飛び降り前の遺書分でちょっと軽減されてた」
「まぁじ?書いとけばよかった」
「書く相手いたか?」
「あんた宛てに!」
「全部話しただろばぁか」
「そうだけども!」
足音が一つ止まらない。歩く速度で確実に遠くなっていく。
「先終わっても待ってるからな、今度こそ一緒に飛ぼうぜ」
「今度『も』一緒にだろバカ!すぐ追い付くからな!」
星が滅ぶほんの少し前に飛び降りた、それでも咎は軽くないらしい。
地獄の道行きで空を見た。二人で一緒に飛び降りた、焼けた空の色によく似ていた。

‹君と飛び立つ›


精一杯に考えた
その名にどれほど祈ろうか
その道行きの幸いを
その名にどれほど祈ろうか
一度たりとも呼べなかった
その名にどれほど祈ろうか
それでも確かにここにいた
大切な大切な君のこと

‹きっと忘れない›

8/20/2025, 8:52:58 AM

嬉しいとき
吃驚したとき
心から感動したときに
ヒトは泣くのだと、涙が出ると教わった
だから
だから
知りたくなかった
「悲しいときに涙が出るなんて、
 そんなの知らなかった!」

‹なぜ泣くの?と聞かれたから›

8/19/2025, 9:43:19 AM

昔から裸足の音が聞こえた。
誰も歩いていない場所のことだ。
近付いてきている、と言うと、
君は決まって鼻で嗤った。
そんなモノは聞こえないと、
袖掴む手を振り払った。
近付いてきているのに。
構ってちゃんは嫌いだと、
開いた口を突き飛ばした。
近付いてきているのに。
毎年、毎夏、毎日、
近付いて来ているのに。

ああ、ほら、後ろに、
君の、

‹足音›


8月32日のバグとは有名なモノで
大概は不変の日常がおどろおどろしく崩れる様で
さりとて蝉の音は五月蝿いままに
日照りの青を見上げていた
終わりは来るのかい、と問えば
わたしが望まない限りは、と
終わりたいのか、と問われれば
続いてくれるならそれで良い、と
互いに願った時間ならば
優しい永遠のままで居られるだろうか
一先無用の長物を
川に流すところから

‹終わらない夏›


空を飛んでみたいのだと
案外正気の目が言った
雲を嵐を突き抜けて
地上の全てを見れる程に
天の国に問には行かず
地の底に問うことも無く
純粋な真実だけで良いと
狂えなかった目が言った

‹遠くの空へ›


大体の感情は言葉に出来て、
記号はその補助をしてる筈。
記号も重ね組み合わせ、
意図を複雑に織り込める。
それでも意味が足りないなら、
それでも表し足りないなら、
「それはきっと、現したらいけないモノなんだ」

‹!マークじゃ足りない感情›

8/15/2025, 9:33:29 AM

雪がちらちら降っている
あぁでもあの日は夏だった
木漏れ日ゆらゆら揺れている
あぁでもあの時は夜だった
星がきらきら瞬いている
あぁでもあの日は曇だった
景色くらくら回っている
あぁでもまだいき続いている

‹君が見た景色›

8/14/2025, 9:47:01 AM

それはことばのカタチをしていた
きっと優しくきっと暖かな
笑顔を生むようなことばだった
ソレを声にしたかった
口にして伝えたかった
優しく撫でて暖かく包むような
笑顔を見たいひとがいた
けれど

否定しか紡げないこんな口じゃ
肯定を出来ないこんな脳じゃ
ひとを笑顔に出来やしない
ひとを幸せに出来やしない

‹言葉にならないもの›


アスファルトで目玉焼きが作れそう、なんて
少し前まで比喩だった
朝の打ち水に涼むことも
少し前まで正しかった
簾に風鈴に団扇だけで
過ごせていたことも
気温に名の付く日が少なかったことも
少し前まで、ちょっと昔まで
本当に真実だったのにね

‹真夏の記憶›


白いクリームがとけている
黒い行列が並んでいる
茶色のコーンが転がって
無情に誰かが踏み潰す

白いクリームがとけている
赤いいちごが滴って
茶色のチョコと交わって
無為に無情に汚れてく

白いクリームがとけている
白い布地にとけている
白い肌にとけている
黒い  にとけている

‹こぼれたアイスクリーム›


どうせ離してしまうならば
はじめから手を伸ばさないで!!

‹やさしさなんて›

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