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7/6/2025, 10:09:36 AM

波の砕ける音がする
水が砕けて空気が砕けて
波の砕ける音がする
岩を砕いて砂に砕いて
波の砕ける音がする
塵を砕いて宝に砕いて
波の砕ける音がする
命を砕いて躯を砕いて
波の砕ける音がする
声を砕いて音を砕いて
波の砕ける音がする
波の砕ける音がする

‹波音に耳を澄ませて›

「逃げられると思った?」
収束した風が色を染める。
急ブレーキの効かない脚は
辛うじて色の隙間、先の景色に飛び込む。
これで、と顔を上げた先、
在る筈の無い行き止まり、
「あーあ、折角通せんぼしてあげたのに」
壁にめり込むように体積を減らしたソレに、
ヒトを形作った色はつまらなそうに肩を竦める。
途端、ぴりりと走った閃光に
あおい髪を掻き上げて。
「生け捕りにしろって言われただろ」
「止めたのに加速で逃げたのがソレー」
「コレ運べないからな」
「けーち」
光が質量を伴い、呆れたように溜息が降る。
「また怒られるぞ」
「知らなぁい。ボスがやってみれば良いんだ」
ぐちぐちとそれでも動かない脚を引き摺って、
道を染める赤は風に還されていく。
行き止まりの道は何事も無かったように
暗い沈黙に浸されていく。

‹青い風›


ひらり示された指先の
その果遠くに光る星
あれは飴細工、と
君は秘めやかに笑った
隣の赤い星はイチゴ
細やかな煌めきはアラザン
テンパリングの空に浮かぶ
大きく丸い月は
あれはこっそりのつまみ食い
今に今に端から齧られ
白く無くなってしまうだろうと
笑う君がひどくかなしそうに見えたから
食べられないように逃げてしまおうと
手を引いて夜を追った

‹遠くへ行きたい›

7/3/2025, 10:04:46 AM

御守りだよと渡された 清らな水の一掬い
目印だよと渡された 無垢に晶らかな冷温
望めば迎えにいくからと 願えばすべて護ろうと
絶対の約束 永遠の契り
故に 困難も痛苦も怖くは無い
孤独を喪失を恐れはしない
何があろうと何処へ至ろうと
必ず報われると知っている

‹クリスタル›

潮の香り 塩素の香り
緑の香りにレモンの香
焼けた大地に干乾びて
蒸し昇り籠る水の匂い

‹夏の匂い›

7/1/2025, 9:49:52 AM

レースの向こうに誘う影
甘やかな声でやわらかな唄で
レースの向こうで揺れる影
手招くように楽しそうに
カーテンを閉めれば聞こえない
レースを開けたら見当たらない
窓の向こうの空すら見れない
いつでもいつまでも呼んでいる

‹カーテン›


深く深く海に沈む
脚のつかない暗い深淵

深海は宇宙と同じくらい
前人未到なのだとか

遥か遥か空に駆く
脚のつけない暗い無限

小さな死骸がゆらふらと
帰る先を探してる

息も出来ずに目は散った
静か静かに揺蕩って

‹青く深く›

6/29/2025, 6:10:18 AM

「なっちゃーん、おひさぁ」
「げっ。早くね」
「えぇー。はっちゃんけっこうがんばったよぉ」
「あー?あー…お前じゃねえ、つぅの奴どうした」
「転んだ」
「なんて??」
「だからぁ、ほんとはつぅちゃんのばんだけど、
 つぅちゃんとまっちゃったから、なっちゃん」
「……はるもうちょい頑張れねえか」
「こうたいおわってから、つぅちゃんころんだから」
「あーうわーマジか…。つぅどんくらいで戻る?」
「ひとつきはないって」
「そりゃそこまで伸びたら奴の戻る余地がねえわ。
 しょうがねえ」
「がんばえー」

‹夏の気配›


果てなく広がる大空と
希望隠して輝く海
その向こうには夢のような
夢のような世界があって
幻獣がいて魔法使いがいて
船が空飛び星を掴み
飢えも病もなく笑い合う
そんな国があるはずで
だから全て捨てて飛び出した
家族も罪も血塗った過去も
全部捨てて全部壊して
一人だけで希望を掴みに
そしたらきっとその国にはきっと
しあわせを生きる皆が居るはずで

‹まだ見ぬ世界へ!›


君のせいだ君のせいだ
と詰るひかり
悲しいような苦しいような
さりとてどこか嬉しげに
君のせいだ君のせいだ
と震えるかぜ
責めるように憤るように
さりとてどこか頼りなげに
君のせいで生まれたのに
君が足りないから死んでいく
本当のことで真実で
だからそこに恨みさえあれば
ただただそうであったなら
「ありがとう」
と振り返る瞳に
恐怖はあれど憎しみは無く
「じゃあね」
と紡がれた声は
疲れたように穏やかで

‹最後の声›

6/26/2025, 10:05:15 AM

例えば手を繋ぐこと
正しく名前を呼ぶこと
会話をして笑い合って
抱き合って泣くこと
本当はそのくらい
そのくらいで良かったのに
そんな事もできなかったから
未来はなくしてしまったの

‹小さな愛›


あおくあおくすみきった空
雲も鳥も星も虫も見えない酷くつまらない景色
澱んだ地下に蠢くモノの方が余程面白いけれど
隣で見上げるあおい瞳がきれいだねえとわらったから
一つだけ頷いた
コレを綺麗と思える感性が羨ましかった
コレを美しく見える瞳が羨ましかった
同じ景色に同じ感想を抱きたかった
きれいだねえとわらっていた
暗く重苦しく灰色が重なるのが
きれいだねえとわらっていた
見上げる空はあおくすみわたる
同じモノを見ていたかった

‹空はこんなにも›

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