波の砕ける音がする
水が砕けて空気が砕けて
波の砕ける音がする
岩を砕いて砂に砕いて
波の砕ける音がする
塵を砕いて宝に砕いて
波の砕ける音がする
命を砕いて躯を砕いて
波の砕ける音がする
声を砕いて音を砕いて
波の砕ける音がする
波の砕ける音がする
‹波音に耳を澄ませて›
「逃げられると思った?」
収束した風が色を染める。
急ブレーキの効かない脚は
辛うじて色の隙間、先の景色に飛び込む。
これで、と顔を上げた先、
在る筈の無い行き止まり、
「あーあ、折角通せんぼしてあげたのに」
壁にめり込むように体積を減らしたソレに、
ヒトを形作った色はつまらなそうに肩を竦める。
途端、ぴりりと走った閃光に
あおい髪を掻き上げて。
「生け捕りにしろって言われただろ」
「止めたのに加速で逃げたのがソレー」
「コレ運べないからな」
「けーち」
光が質量を伴い、呆れたように溜息が降る。
「また怒られるぞ」
「知らなぁい。ボスがやってみれば良いんだ」
ぐちぐちとそれでも動かない脚を引き摺って、
道を染める赤は風に還されていく。
行き止まりの道は何事も無かったように
暗い沈黙に浸されていく。
‹青い風›
ひらり示された指先の
その果遠くに光る星
あれは飴細工、と
君は秘めやかに笑った
隣の赤い星はイチゴ
細やかな煌めきはアラザン
テンパリングの空に浮かぶ
大きく丸い月は
あれはこっそりのつまみ食い
今に今に端から齧られ
白く無くなってしまうだろうと
笑う君がひどくかなしそうに見えたから
食べられないように逃げてしまおうと
手を引いて夜を追った
‹遠くへ行きたい›
7/6/2025, 10:09:36 AM