僕にできるのは記録であり、
記憶には遠く及ばないのだと、
君は胸を張っていた。
濃淡も明暗もまちまちに消えやすく、
歪曲とフィルターで不確定になる、
印象だけ残された架空のビデオが、
それほどまでに素晴らしいのか、
分からないのは僕に感情が無いせいか
‹記録›
帰るまでが遠足で
終わりよければ全てよし
だけど
どうしようもないエンディングでも
希望も救いもない最後でも
きっと君の心の中
膿腐る傷の一つにでもなれたなら
‹さぁ冒険だ›
君の為に花を一つ
例えば君の歩く安全な街並み
例えば君の笑う無限の感性
例えば君の登る夢のステージ
例えば君の学ぶ多彩な国々
例えば君の繋ぐ愛情のカタチ
君のゆく未来に一つの花を
私が贈る一つの花を
皆で合わせて君達に贈る
精一杯の花束を
‹一輪の花›
「『十分に発達した科学技術は魔法と見分けがつかない』とは言うけどさ、そうしたらこのオカルティックファンタジーとかも、未来にはただの事実事象になっていたりするのかね」
「まあテレビ通話に映写機合わせたら、ほぼこの通信魔法とおんなじ見た目になるよね」
「帰宅した時には洗濯も掃除も終わって冷暖房ついてます、とかドワーフか妖精の扱いになってそう」
「空も水上も宇宙も深海も行けます、カッコ尚って奴だけどまぁコレ正気の疑いから入るかね」
「それまず地上空中の移動速度ぶん投げた方がひっくり返るやーつ」
「雨乞い諸々系は魔法より神様になりそうか」
「秒で育って実るとかもマジね」
「身体生やせるはアクションファンタジーだと想います!」
「バベル塔無くても言葉通じるしなぁ」
「後は何が科学技術に落とされるかな」
‹魔法›
虹の麓には宝物があると
君は笑って指を差した
遠い遠い景色の向こう
きっといつか一緒に行こうと
虹の麓には花畑があって
君は俯き泣いていた
遠く遠く川の向こうへ
君と共には行けなくて
‹君と見た虹›
「はい始まりました夜空最速選手権。
司会は私、いつでもあなたを見守る満月と」
「実は固定化されてません、実況の北極星で
お送りします」
「さて選手達も続々と登場しております。
それぞれ意気込みを伺いましょうか」
「ではエントリーナンバー1番、
夜空を走ると言えばこの方、流星選手!
今回は流星群の皆様とご参加ですね」
「空を飾るに相応しい姿、見せ付けて行きます!」
「流石は流星選手、激しく燃えております」
「流星選手は燃え尽き症候群のハンデが
ありますからね…」
「表彰台にたてるかの問題がありますか…。
気を取り直してエントリーナンバー2番、
一晩に世界中、計算上は光速を超えると噂
サンタクロース……のトナカイ選手!」
「こちらもチームでご参加ですね」
「最速のトナカイを決めに来た。他は知らないな」
「なんという自信!他の選手には目もくれない」
「例年は協力して重いソリを引いておりますが、
単独走になることが吉と出るか凶と出るか」
「エントリーナンバー3の飛行機選手は
少々到着が送れている模様です」
「最速選手権でこれは幸先の悪いスタートですね」
「スタート時刻に間に合わない場合は
強制失格となりますので皆様ご承知おきを」
‹夜空を駆ける›
口に出してはいけなかった
言葉にしてはいけなかった
思うことだけは許された
ばれないから許された
世間の一般をなぞらえた
自分の定義を調整した
興味の矛先を確かにずらし
手段と目的をすり替えた
してはいけないことだった
許されない筈のことだった
世間の風向きを静かに押した
作り上げた自分で圧した
伝えたいことがあった
とうに意味の無い事だった
伝えたいひとがいた
とうに届かない事だった
間に合わないことに気付いても
とうに止められぬ事だった
‹ひそかな想い›