触れた指先は冷たくて、
そしてただ硬かった。
整えた爪先唇は、
美しいまま変わること無く。
撫でた髪は荒く短く、
抜けはしないが伸びもしない。
あの人に似せた人形を、
あの人の代わりの人形を。
その魂を宿せぬままに、
その名呼ぶことも出来ぬままに、
ただ沈黙貫く人形を。
ある朝瞬き微笑んだ、
見知らぬ表情の人形を。
‹あなたは誰›
机の中の封筒を本棚に差した
写真立て裏の封筒を鉢の下に置いた
下駄箱の封筒を引き出しに仕舞った
皿の上の封筒をポストに入れた
栞代わりの封筒を額縁に挟んだ
新聞から落ちた封筒を靴の上に投げた
‹手紙の行方›
その道の先にあるものが
誰もが羨む名声なら
その道の先にあるものが
誰もが賛する発明なら
その道の先にあるものが
誰もが頷く和平なら
その道の先にあるものが
その道の先にあるものが、
そんなものでなくても
ただ一つ私だけを導く星ならば
ただ私だけに光って見えるとしても
私はこの道を行くだろう
‹輝き›
例えば君が駆け出す瞬間、
ゴムとアスファルトの擦れる音
例えば君が振り向く瞬間、
高く風切り落ちる音
例えば君が立ち止まる瞬間、
閃光目眩む爆発音
例えば君が、
例えば君が、
例えば君が生きてる瞬間、
何より守りたい鼓動の音
そのためならば、
そのためならば、
誰も何も己も全てを
代わりに殺してしまえるから
‹時間よ止まれ›
あそこに行ってはいけないよ
あれを食べてはいけないよ
あちらを信じてはいけないよ
いけないよ、と声がする
君とともに生きたかったから
そっちに行ってはいけないよ
それを食べてはいけないよ
そのひとを信じてはいけないよ
いけないよ、と声がする
君のもとに逝きたかったから
いけないよ、と声がする
誰のものかは、分からないけど
‹君の声がする›
それは恋ではないけれど
愛と胸張って言えないけど
日付に託つけた贈り物
口では禁句な感謝の気持ち
‹ありがとう›
『よう、今日は午後からゲリラ雨だぜ』
『そいつはお前さん嫌いな味だぞ』
『あいつ?止めとけ止めとけ関わるな』
『ま、この辺ヤマ張っとけば上出来だろうさ』
『よう、どうしたそんなツラで』
『……あぁ、もうそんな時期か』
『はは!要らん要らん。オレの趣味だ気にすんな』
『まあそうだな、どうしてもってなら
ちっと一つ頼まれてくれ』
『神‹オレ›に毎日祈ってくれよ』
『ソレ。信仰は力なりって正解な』
『大人になるとみぃんな忘れちまうからさぁ』
『死ぬ迄覚えててくれよ、お前さんは』
‹そっと伝えたい›
「明日のテストを頑張ると?」
「勉強をずっと頑張ったら俺になる。
皆を守るのに憧れて自衛隊になった」
「来週のスポーツ大会頑張ると?」
「スポーツに打ち込むなら僕になる。
大怪我したけど監督になったよ」
「あの子に好きになってもらうよう頑張ると?」
「人を愛し続けたなら私になる。
沢山に愛し愛されるアイドルさ」
「好きなことを頑張ると良い、
どれもが未来を導くから」
「………」
「言わなくてよかったの、
こんな自分になる可能性を」
「一番教えたくなかったのは『俺』だろう」
「『僕』が絶え間なく頑張れるなら大丈夫だよ」
「その為に『私』達が呼ばれたんでしょ」
「後は『誰』に辿り着けるかだけ」
‹未来の記憶›
「ココロコロコロミコロコロ
コロコロコロガリムコロコロ」
「どしたの早口言葉?」
「いや現状をほのぼのにしてみた」
「ソレ擬音じゃなくて殺かい」
‹ココロ›
突然の流れ星でも3回唱えられる位
常に願ってる事だから叶うのだと
一言目で舌を噛んだ君が嘯いていた。
流星はただの宇宙の塵屑で
空気に負けて昇華しただけだと
居眠りから跳ね起きた君が嘯いていた。
結局お前は信じてないの
夢物語なそんな話。
結局全部は実力だけだと
奮い立つ君の心根が
折れないようにだけ願おうか。
‹星に願って›